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さまざまな通信手段を適材適所で活用し、「つながる東京」を実現する
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東京都が街づくりの概念として掲げる「スマート東京」。デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送ることができる社会をめざしています。その大きな柱となる施策の一つが、「つながる東京」。このプロジェクトに携わる平井と上野が、仕事のやりがいや未来への展望を語ります。
平井(東京都)
デジタルサービス局戦略部デジタル推進課・デジタルシフト推進担当課長。2005年ソフトバンクBB株式会社(現ソフトバンク株式会社)入社。ネットワークの対外接続、各種ブロードバンドサービスの技術企画業務などに従事。2019年12月東京都庁に入庁。ビートルズとヘビメタが大好き!
上野(東京都/ICT職)
デジタルサービス局つながる東京推進課つながる東京推進担当。大学では社会工学を専攻し、環境問題に関する将来予測分析を実施。2018年証券系システム会社に入社し、データベースや業務用システムの保守を担当。2022年東京都庁に入庁。環境局で環境学習事業の管理・運営業務を担当した後、現職。
いつでも、誰でも、どこでも、何があってもネットワークにつながる東京をめざす
東京都は、「スマート東京」実現に向けた施策として、「つながる東京」という取組を進めています。まずは、「つながる東京」の概要を教えてください。
上野:「多様なデジタルサービスが生み出され、誰でもサービスを享受できる社会」「データ利活用により、さまざまな社会課題の解決がなされるデータドリブン社会」を実現するために、あらゆる人やモノが、いつでも、どこでも、何があってもネットワークにつながる東京をめざしています。
2030年をターゲットに、つながる東京の実現に向けたさまざまな取組を実施していきます。
平井:スマート東京には、「TOKYO Data Highway」「街のDX(公共施設や都民サービスのデジタルシフト)」「行政のDX(行政のデジタルシフト)」という3つの柱があって、つながる東京は「TOKYO Data Highway」の取組です。
街のDXや行政のデジタルシフトを進めるにしても、まずはインターネットにつながる環境がなければ始まりません。昨今注目されている5G以外にも、光回線や公衆Wi-Fi、衛星通信回線など、多様な手段があります。
たとえば、都は、伊豆諸島のうち大島、三宅島、八丈島を除く5村6島や小笠原諸島の父島、母島で高速大容量の通信が行えるよう海底ケーブルを整備し保守管理を行っています。さまざまな手段を適材適所で多層的に活かし、つながる環境を整備することが重要と考えています。
具体的には、どのような事業があるのでしょうか?
上野:5Gの整備に向けては、都保有アセットのさらなる開放や区市町村アセットの開放を進めていきます。もちろん、都や区市町村の施設だけでは不十分なので、民間施設などの協力を得ながら、官民協働で取り組むことが必要です。
また、キャリアの電波が1社もつながらない通信困難地域の解消、オープンローミング対応Wi-Fiの整備などにも取り組んでいます。
平井:オープンローミング対応のWi-Fiであれば、使ってもらえるユーザーを増やしていかなければいけません。ユーザーを増やすためには、カフェやコワーキングスペースなど、オープンローミング対応のWi-Fiを採用してくれる民間施設も増やさなければいけません。
民間企業としては、どういうユーザーメリットがあって、費用対効果がどれくらいかが求められると思います。そこに対し、行政として、どうメリットを説明し、どのようなサポートが可能なのかを伝えていくことが、大きなチャレンジです。
さまざまな関係者と知恵を出し合い、通信困難地域の解消に取り組む
「つながる東京」の中で、お二人が担当している業務を教えてください。上野さんは、通信困難地域解消に向けた支援を担当されているとのことですが、どういった内容でしょうか?
上野:モバイル通信ネットワーク環境整備事業という補助事業に携わっています。
この事業の1つに、通信困難地域解消等に向けた計画策定支援事業があります。具体的には、地元自治体の通信の改善要望に基づいた電波測定調査や、その結果を踏まえたアンテナ基地局整備の計画策定等に対して費用補助を実施しています。
町村が主体となって進めるのですが、通信困難地域が存在する自治体は、職員の数も十分ではありませんし、キャリアとの交渉などは専門的な知識も必要です。そのため、東京都がサポートに入ることもあります。
平井:上野さんは淡々と話していますが(笑)、この仕事はかなり大変なんです。なぜなら、各キャリアともアンテナ基地局設置が難しく、ユーザーも少なく、整備優先度が低いエリアが通信困難地域になりがちだからです。
けれど、災害時の備えという観点からも、通信困難地域を解消するというのは重要な取組で、自治体からのニーズも高く、有識者からの期待も大きいのです。
通信困難地域を解消していくために、キャリアと自治体とで協力体制を作らなければいけません。
上野:そうですね。通信困難地域は人口も少ないですし、1日に数人しか訪れない場所もあります。当然、キャリアにとっては採算が合わない、手を出しにくい地域です。そこにアンテナ基地局を設置するために、キャリアやチームのメンバーと知恵を出し合って、少しずつ前に進めています。
たとえば、どのような方法を検討していますか?
上野:通信困難地域には商用電源がないことが多いので、太陽光発電や蓄電池等によりアンテナ基地局の電源を確保する策を検討しています。
また、地理的条件等により、基地局の整備が難しい場所に対し、新たな通信手段の活用も視野に入れて、通信困難地域を解消していきたいと考えています。
東京都が先陣を切り、オープンローミング対応Wi-Fiの社会実装をめざす
平井さんは、どのような取組に携わってきたのか教えてください。
平井:私は主に、5Gアンテナや高速Wi-Fiを搭載した「スマートポール」の設置や、オープンローミング対応Wi-Fiの整備に関わっています。オープンローミングというのは、WBA(Wireless Broadband Alliance)とその参加企業が共同開発した国際的な無線LANローミング基盤で、通信のセキュリティと利便性を確保することができます。
通常、セキュリティと利便性というのはトレードオフの関係で、セキュリティを上げようとすると使い勝手が悪くなるんです。たとえば、安全にWi-Fiを利用するためには、つなぐ度に登録作業が必要になるといったことです。
けれど、オープンローミングに対応したWi-Fiであれば、1回登録すれば、再度登録することなく使える仕組みを実現できます。この試みは全国の自治体でも初めてで、グローバルに見ても、この規模の都市でチャレンジしているのは珍しいと思います。
このチャレンジに関して、平井さんはどの段階から関わっていたのでしょうか?
平井:企画段階から関わっています。安全でシームレスにつながる新しいWi-Fiを都民の皆さまにたくさん使ってもらいたいというアイディアを、熱意を持った職員や事業者と共に企画として練り上げ、技術の仕様など詳細を議論し、実装していく。そのサポートをしています。
2021年に西新宿に設置したスマートポールにオープンローミング対応Wi-Fiを入れ、技術検証を行ったのがスタートです。
2023年3月の東京マラソンでも、技術検証が行われていますよね。
平井:はい。東京マラソンでは、参加者が体調管理アプリを使って受付をします。そのために必要なWi-Fiとして、受付カウンターとスタート地点のゲート付近に通常のWi-Fiとオープンローミング対応Wi-Fiを用意しました。
その結果、とくにオープンローミング対応Wi-Fiについてアナウンスしていないのに、過半数がオープンローミング方式でつながった日もあり、思った以上の成果を得られました。
いくつかの海外携帯キャリアはもともとオープンローミング対応されており、そのユーザーの接続が多かったですね。
先ほど上野さんも、民間と協力体制を築くことが大きな課題だとお話しされていました。やはり、社会実装に向けては、そこが壁となるのでしょうか?
平井:そうですね。まだマーケットが成熟していない技術やプロダクトの社会実装は非常に難しいと思います。たとえば、ニューヨーク市ではオープンローミングの要素技術であるPasspointという仕組みを導入しています。これは行政が先陣を切って、新しい技術を実装した好事例だと思います。
オープンローミング対応Wi-Fiも東京都が先陣を切ることで、民間にも波及し、社会実装が進む好事例としたいですね。
社会課題が複雑化する時代。行政と民間が協力しなければ解決できないことがある
お二人とも、民間企業から行政に転職されています。行政に入ってみて感じるやりがいを教えてください。
上野:行政は、中長期的に社会をどう作るかを考えるので、そのような視点でチャレンジできる点が大きな魅力です。
私自身、大学では気候変動問題に取り組んでいて、長期的な視点で課題の解決策を考えていました。行政の中でも、東京都なら、ICTを活用して気候変動問題の解決に向けた施策を検討できるかもしれないといった可能性を感じて転職したという経緯もあります。
平井:そうですね。社会的インパクトが大きい仕事に携われるというのが、一番の魅力です。東京都の場合、令和5年度の一般会計に、特別会計と公営企業会計を合わせた都全体の予算規模は約16兆円、職員は約17万人という超巨大組織です。そのDXを推進すること自体が、社会貢献だと考えています。
また、都庁に入って気づいたのですが、行政は解決を待つ社会課題が凝縮されているフィールドです。解決を待つ魅力的な課題がたくさんある状況は、課題解決を生業にするエンジニアが興奮するフィールドです。
では逆に、行政に入って戸惑ったことはありますか?
平井:選択と集中が難しいことです。公平性を重んじた取組をする必要があり、スピード感とのトレードオフになりますし、そもそも優先順位を決めること自体が、非常に難しいですね。
上野:確かに、決裁までにいろいろな部署を回る必要があり、意思決定のスピードの違いを感じることはありました。さらに、文書主義なので、決裁のための文書もしっかり作る必要があります。後世に残るものだからという背景があるのですが、そこは戸惑いました。
率直なご意見、ありがとうございます。最後に、お二人の今後の目標を聞かせてください。
上野:今、キャリアとの交渉を繰り返す中で、信頼関係がとても重要だと感じています。その関係を築くためには、こちらも一生懸命知恵を出して、建設的に議論する場を作っていくことが必要です。
私自身、まだ知識や経験が足りないので、担当している業務分野について勉強して、対等に話ができるように努力していきたいと考えています。
また、デジタルサービス局には、平井さんのように高いスキルを持った方がいますので、そのスキルを吸収して、都庁のDXなどにも挑戦したいですね。
平井:民間企業と対等な関係をサステナブルに作っていくことは重要ですよね。私も、そこに挑戦したいと思っています。
とくに2020年以降、社会課題が複雑化して、行政だけ、民間企業だけでは解決できないことが増えてきたと感じています。じゃあ、行政と民間企業だけで解決できるのかといえば、NPOなどの力も借りないといけない。そのためのハブを、誰かが担う必要があります。
私には、「世界をつなげる」という大きな夢があります。その夢をかなえるため、まずは自分の見える範囲で人や事業をつなげていきたい。そして、行政の経験を活かして、もっと広く社会貢献していきたいと考えています。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです