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民間企業での実務経験を行政DXに還元──企業派遣で得た新たな視点
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行政のDXを進めるため、デジタル人材の育成に力を入れている東京都。その取組の一つに、民間企業との人事交流があります。実務を通してデジタル分野の最新の知見を得ることができるこの制度に参加した西田と山田に、民間企業で学んだこと、それを活かして行政で挑戦したいことを聞きました。
西田(東京都/ICT職)
デジタルサービス局総務部デジタル人材戦略課。学生時代は電気・電子・情報学を専攻し、2019年東京都庁入庁。下水道局に勤務後、東京都下水道サービス株式会社に派遣され、機器保守などに従事。2022年4月にICT職へ職種変更、ネットワーク系ベンダーへ派遣。ネットワーク更改などに携わっている。
山田(東京都/ICT職)
デジタルサービス局デジタル基盤整備部情報システム企画課。学生時代は情報分野を専攻。2021年東京都庁に入庁し、都庁各局等のDXを支援する業務を担当。2022年4月より人事交流で大手印刷会社に派遣され、主に社内のクラウド利活用プロジェクトへの技術支援の業務に携わる。2023年4月より現職。
IT先進企業でクラウド推進やセキュリティを担当。実務を通して技術を習得
──東京都は職員の育成や組織のさらなる活性化などを目的に、民間企業などとの人事交流を行っています。
ICT職に関しても、「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」に基づいて、若手のうちに積極的に民間企業へ派遣する機会を設けています。山田さんは、入庁2年目の令和4年度(2022年度)に先進的なクラウド利活用を実現している企業に派遣されていましたが、どのような仕事を担当していましたか?
山田: CCoE(Cloud Center of Excellence)というクラウドサービスを統括する部署で、グループ全体のクラウド利活用を推進する業務を担当していました。仕事内容はさまざまでしたが、主に2つの業務を担当していました。
1つめは、社内のクラウドを利用する案件に対して、セキュリティ対策の助言などを行う技術的な支援です。2つめは、社内のクラウド人材の育成です。クラウドの資格取得を目的とした座学中心の研修や実際にクラウドを体験してもらう操作研修などを開催して、クラウド人材の育成に努めていました。
──もともとクラウドに関する知見はあったのでしょうか?
山田:企業に派遣される前までは、クラウドに関する知識はほとんどありませんでした。
そのため、派遣された当初はCCoEが開催する研修に参加させてもらったほか、社内のクラウド利用案件への技術支援の場に何度も同席させてもらいました。
また、グループのメンバーが、クラウド技術に関する疑問や私が抱える業務の課題や悩みを相談する時間を毎週作ってくれて、その活動を通してクラウド技術に関する知見を深めていきました。
──西田さんは令和5年度(2023年度)の派遣なので、今まさに民間企業で仕事をされています。派遣先はネットワーク系ベンダーですが、担当している業務を教えてください。
西田:技術部門で、中央省庁や地方自治体向けのシステム更改案件に携わっています。現在は、クライアントが利用している機器を監視する回線の構築作業をメインで担当しながら、さまざまな案件に少しずつ関わらせてもらっています。
──デジタルサービス局に配属されたのが2023年4月なので、配属後すぐに民間企業への派遣となりましたが、担当業務に関する知識はどのように習得したのでしょうか?
西田:私はもともとIT関係の仕事ではなかったので、会社が研修も含めた年間プログラムを組んでくれました。4月から6月はネットワークの基礎に関する研修を受け、7月から9月は実務を通してネットワーク更改を経験。10月から12月にはセキュリティを中心とした研修を受けました。現在はネットワークとセキュリティどちらにも関わる案件に参加しながら、経験を積んでいます。
まずはeラーニングや講習で知識を身につけた後、実機を触って設定などを学び、案件に参画しながら実務経験や実践的な知識を得るという流れを組んでもらったことで、しっかり技術が身についていると感じます。
ICT職の新設を機に職種変更。官民どちらの経験も積める機会をチャンスに
──西田さんは、以前はIT関係の仕事ではなかったとのことですが、東京都に入庁された理由と、これまでの仕事について教えてください。
西田:大学で電気・電子・情報を専攻していたこともあり、技術的な仕事に興味があったんです。中でも東京都は予算規模が大きく、大きな事業に携われることに魅力を感じて、2019年に電気職として入庁しました。
まずは下水道局で監視室から施設の機器を運転操作する業務を担当し、その後3年間、東京都下水道サービス株式会社に派遣され、下水道施設にある電気機器の保全作業や分電盤などの修理対応を行っていました。
──ICT職になったのは、どのような経緯ですか?
西田:もともとITに関する仕事にも挑戦してみたいと思っていたのですが、私が入庁した時にはまだICT職がありませんでした。しかし、2021年にICT職が新設されたことを知り、少しずつ勉強を開始。情報処理安全確保支援士の資格が取得できたタイミングで職種変更の希望を出し選考に応募し合格、2023年4月にデジタルサービス局に配属されました。
──IT関係の業務経験がない状態で民間企業に派遣されることになりましたが、不安はなかったのでしょうか?
西田: むしろ、「ぜひ行かせてください」という感じでした。経験がないので、デジタルサービス局で働くのも民間企業で働くのもそれほど変わらないという感覚だったんです。
下水道局の時にも民間企業に派遣されていて、都から委託されるベンダー側での仕事を学べることは都庁での業務に活きると実感していましたし、IT分野に特化した企業で自分の軸となる技術を身につけられる機会はありがたいなと思いました。
──とてもポジティブに捉えていたんですね。山田さんは、東京都に入庁されたのはどのような理由からですか?
山田:私は大学で情報分野を専攻していて、デジタル技術を使って日常生活での不便を解消する方法を考えたり、実際にツールを作って試してみたりといった活動をしていました。その活動を通して、より多くの人がデジタル技術の恩恵を受けられるための活動をしたい、それを実現できる仕事に就きたいと考えていました。
そんな中、東京都がICT職の募集を開始したと知り、東京都であれば、事業の規模も大きく、より多くの人に対してその想いが実現できると思い、入庁しました。
──山田さんも入庁2年目という早いタイミングで企業への派遣を経験されましたが、当時の率直な気持ちを教えてください。
山田:ようやく東京都の仕事に慣れてきたというタイミングだったので驚きましたが、就職活動では民間企業への就職も視野に入れていたので、2年目で行政と民間企業の両方で働く経験ができて、いい機会だなと思いました。
ただ、DXに関して先進的な企業なので、「足を引っ張らないように勉強しないといけないな」と少し不安と焦りもありました。
自分で考える力、スピード感、横のつながり。行政との違いを経験して成長を実感
──企業に派遣されて、とくに大変だったことやギャップを感じたことを教えてください。
西田:ネットワーク環境の監視のために200台以上の機器にエラー通知を送る設定をする業務を担当した時に、事業者の方との認識が違っていて再設定が必要になってしまったことがありました。
途中でお互いの認識が違っていることに気がついたので大きなトラブルにはならなかったのですが、構成図などを擦り合わせて、決めるべき項目を事前にしっかり洗い出しておくことが大切だと実感しました。
山田:私は、スピード感の違いですね。たとえば、社外の方との打ち合わせで「こういうイベントを開催できたら、社内の人がクラウドに興味を持ってもらえそうですね」というような話が出た際、その打ち合わせの場で「じゃあやりましょう」と開催が決まることがありました。
良いと思ったアイデアがあれば、その場ですぐに決めるべきことを決めて、どんどん話が進んでいきます。行政では、年度単位で物事を決めて進めていくので、スピード感には驚きとともに大きなギャップを感じました。
──そういった経験をして、自分自身の成長を感じたことはありますか?
西田:常に自分で考えながら仕事を進める癖がついたと感じています。行政ではマニュアルや前年度の資料を踏襲しながら業務を進めることが多かったのですが、派遣先では個人の裁量が大きく、まずは自分でネットワーク構築方法や必要な機器の選定などを行って上長に提案します。
ITの世界は新しい技術がどんどん出てくるので、たとえ過去に同じような事例が社内にあったとしても、今現在それが最適とは限りません。これまでは前年の事例があるという安心感があったのですが、「本当にそれがベストなのか」と疑問を持つこと、自分でしっかり調べて根拠を持つことが大切だと考えるようになりました。
山田:自分で考えて取り組むことの大切さは、私もすごく実感しました。現状の課題を整理して報告するだけではなく、自分だったらその課題をどう解決するのか、自分なりに答えを出したうえで上長に報告することが求められたので、自然とその力が身についたと感じます。
ほかには、社内で横のつながりを作る大切さを学びました。所属していた部署は、私を含めて4人体制でしたが、4人だけでグループ全体のクラウド利活用を促進していたわけではありません。部署の垣根を超えてクラウドを利用する人たちが集まったコミュニティがあり、コミュニティ全員でクラウドの利用を促進していました。
コニュニティの中には、社員同士が協力し合える場があり、それが社員一人ひとりの「クラウドを利用していくぞ」という意識作りにつながっていたと思います。そうしたコミュニティの一員として活動できたことは、自分にとって貴重な経験になったと感じています。
クラウド移行や教育分野のICT活用──企業視点を活かして東京都のDXに貢献したい
──企業での経験をもとに、これからチャレンジしてみたいことを教えてください。
山田:現在、私は庁内の業務システムのクラウド転換を推進する部署で、都庁のクラウド利用におけるガイドラインの作成や庁内向けにクラウドに関する説明会を開催するなどといった業務をしています。まさに企業で経験したことを活かせる仕事だと感じています。
庁内のすべての業務システムをクラウド転換していくためには、デジタルサービス局の職員だけではなく、各局等の職員の協力が必要不可欠だと感じています。だからこそ、部署の垣根を越えて職員同士が協力し合えるような環境づくりを行っていけたらと考えています。
また、以前から教育分野のICT活用にも興味があります。
東京都では、たとえば「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」など、教育分野におけるICT活用にも力を入れています。将来的には、ICTを使って島しょ部の地理的制約を解消するなど、教育分野でこれまでの経験を活かしていきたいと考えています。
──東京都に入った理由に規模の大きさを挙げていましたが、実際に仕事をしてみて、そこは魅力に感じる部分ですか?
山田:そうですね。東京都には規模が大きい事業も多く、責任が大きい仕事だと感じています。その分やりがいがありますし、うまく業務を遂行できた際には達成感があります。
また事業の幅がとても広いため、使われているシステムやそこで発生する課題などもさまざまで飽きないのも魅力の一つだと思います。
──西田さんは、これから本格的にICT職として都庁での業務が始まります。やってみたいことはありますか?
西田:やはり、いま学ばせてもらっているネットワークセキュリティの仕事を担当してみたいと思っています。たとえば、都庁内でネットワークの更改案件などがあった際、ベンダーとの窓口を担えたらいいなと考えています。
1年間、ベンダー側の立場で役務の内訳や必要な予算規模を学ぶことができたので、技術的なことも含めてベンダーと対等にプロジェクトを進められるのではないかと思います。
私はまだ、行政のDXに関して想像がつかないことが多いのですが、企業での経験を活かした視点で取り組んでいきたいですね。
※ 記載内容は2024年2月時点のものです