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対象者は約3万人の職員。給与・庶務システムの改修で事務作業の負担を軽減
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デジタルを活用した都政のサービス品質向上のため、DXを加速させている東京都。DXが求められているのは、都庁内部の業務も同様です。総務局人事部制度企画課で、ICT職として給与システムや庶務事務システムの改修に携わっている斉藤と木下に、都庁内のDXの現状や今後の展望を聞きました。
斉藤(東京都/ICT職)
総務局人事部制度企画課人事システム担当・課長代理。2011年、主に公共分野のシステム開発を行うSIerに入社。SEとして後期高齢者医療制度や国民健康保険制度に関する基幹業務システムの開発を担当。2020年東京都庁に入庁。給与システムの運用を担当した後、庶務事務システムの運用・構築を担当している。
木下(東京都/ICT職)
総務局人事部制度企画課人事システム担当・主事。大学院での専攻は物理学、研究テーマは低温物理学。2021年東京都庁に入庁。同課に配属され、東京都知事部局等の職員約3万人の給与計算等を行う給与システムの運用・改修をはじめ、給与明細や源泉徴収票、昇給昇格等通知書の電子化などに携わる。
事務担当者を介さなくても給与計算ができるようになる仕組みを作ることがゴール
お二人は現在、ICT職(都政とICTをつなぎ、課題解決を図る人材)として、システムの改修・運用を担当されています。それぞれ、どんなシステムを担当していますか?
木下:東京都には、いくつかの給与システムがあります。その中で私は、総務局やデジタルサービス局などで働く職員を対象とする給与システムの改修・運用を担当しています。
一般職員と再任用・会計年度任用職員を合わせて、およそ3万人を対象としたシステムで、毎月の給与や賞与の計算・支給、明細発行はもちろん、年末調整を行い源泉徴収票を配布するための運用を行っています。
職員に正しく給与を支払うことは当然として、給与業務を担当する職員の負担を減らすことも大きな役割です。
人事制度が頻繁に変更される中で、改修が必要な箇所を洗い出してベンダーとの調整を行うほか、給与業務担当職員からの要望に応じて、マクロやAccessを使い事務処理の手助けとなるようなデータの作成を行ったりします。
斉藤:私は、2020年に入庁してからの2年間は、木下さんと同じ給与システムの改修に携わっていました。現在は、職員の勤怠管理や残業などの各種申請で利用する庶務事務システムの運用・構築を担当しています。勤怠に関わるシステムなので、給与システムとも連動しています。
事務を担当する職員の負担軽減にもつながるということですが、実際にどのような効果が出ていますか?
斉藤:私が担当している庶務事務システムでいうと、これまで紙で行っていた残業や年末調整の申請を、職員自身がオンラインでできるようになったことで、事務担当者の作業時間はかなり削減できているのではないかと思います。
ペーパーレス化を進めて、事務担当者の人的コストを削減することができれば、その分のリソースを別の業務に充てることができます。また、入力ミスも減るので、より正確な給与計算にもつながります。
いずれ、事務担当者を介さなくても職員が行うすべての申請手続がシステムでできるようになることがゴールなのかなと思っています
木下:事務担当者はもちろん、一般職員からも「申請の手間が大きく減った」という声が上がっています。それまでは、紙に書いて、上司にハンコをもらう必要がありましたから。
給与明細も、以前は紙で出力して配布していましたが、現在はWebサイト上で閲覧できるようになりました。
開発経験を活かして、レガシーシステムとパッケージシステムの融合に挑む
斉藤さんは、入庁前はSEとして活躍されていましたが、システムを見た印象や、改修にあたって苦労したことを教えてください。
斉藤:もともと担当していた給与システムはレガシーシステムで、軽微な改修を行うにも影響調査に時間を要し、大きな手間とコストがかかるシステムです。
一方で、現在担当している庶務事務システムは2020年に立ち上がったもので、パッケージシステムを使っています。この2つのシステムを連動させるためにインターフェースなどの調整をしなければいけない点が大変でした。
都の人事制度は複雑で、給与システム側では簡単に計算等のロジックを変えることができません。そうなると、庶務事務システムが歩み寄って仕様を決めていくしかないのですが、パッケージのため自由が効かないんです。費用面も含めてベンダーとの調整を行うのに苦労しました。
ベンダーとの調整を行う際に気をつけていたことはありますか?
斉藤:人事制度は硬い言葉で書かれているので、その文章のまま渡してしまうと、何を言っているのかわかりません。ベンダー側も困ってしまいますし、結果的に、こちらの意図するものができないんです。
設計書や仕様書に落とし込むにはどの情報が必要で、どう言葉を噛み砕けば認識に齟齬なくシステムができあがるかを、自分自身の開発経験をもとに伝えるようにしています。
木下さんは、システムに関する知識がない状態で入庁されていると思いますが、どのように知識やスキルを身につけたのでしょうか?
木下:周りの方たちに聞きながら、どういう入力をしたら、どういったロジックでこの結果になるのかを、毎回毎回実地で確かめながら学んできました。この人事制度が、給与システムの視点から見たときにどう反映されているのかを仕様書で確認しながら、頭の中で突合していくイメージです。
制度自体もすごく難しいので、同じ人事部制度企画課の中で制度構築に関わっている方たちに細かい部分を教えてもらいながら進めています。実は、今日も年末調整の勉強会を先輩が開催してくれました。
木下さんが1年目のときのチューター(教育担当)が斉藤さんだったそうですね。
木下:はい。ゼロからいろいろなことを教えていただきました。とくに、スケジュール感を強く意識されていて、私が年末調整に関するスケジュールを立てたときに、「これでは甘いですね」と指摘されたことが印象に残っています。
私が立てた計画は、繁忙期や制度の変更を考慮しない大雑把なものだったのですが、斉藤さんはそういったことを踏まえた上で、前もって何をしておくべきかを常に考えているんです。その考え方がすごく勉強になりました。
斉藤:木下さんは、はじめから主体的に学ぼうという気持ちが強かったので、あまり教えた記憶はないのですが……(笑)。まだ3年目ですが、みんなを引っ張っていくリーダー的な存在になっていて、とても頼もしいです。
東京都の規模感で、DXの効果を肌で感じることができるのが魅力
行政に入られたきっかけを教えてください。斉藤さんは民間企業から転職されていますが、どのような理由があったのでしょうか?
斉藤:前職では公共系のシステム開発をしていたので、行政との関わりはありました。ただ、ベンダーは指示通りの仕様で作ることが求められるので、ちょっと物足りなくなってきたんです。
ユーザー目線で、自分の考えを持っていろいろなシステムを開発してみたいと思っていたタイミングで、東京都がDXをどんどん推進していくという動きがあり、転職しました。
実際に行政の中に入ったことで感じるやりがいを教えてください。
斉藤:自分がシステム担当として携わる中で、事務作業の電子化がどんどん進み、便利になってきているという変化が目に見えることが、大きなやりがいです。先ほど話したように、私が入庁した4年前は残業申請などもすべて紙で行っていましたから。「東京都はDXがこんなに進んでいないんだ!」という衝撃がありました。
現在でも紙が残っている部分はたくさんあるので、これからもICT職としてDXを推進できるように力を発揮したいと思っているところです。
木下さんが東京都に入ろうと決めたのは、どのような理由からですか?
木下:やはり、規模感の大きさが一番の理由です。いま私が担当しているのは職員向けのシステムですが、それだけでも対象者が3万人ほどいます。都民向けのサービスであれば、さらに規模は大きくなります。
単に規模を求めるなら国のほうが大きいのですが、東京都は基礎自治体よりも広い視点を持ちつつ、住民の方たちとの近さもあることに惹かれて入庁しました。
また、いろいろなことを経験したいと思っているので、仕事の幅が広くて、異動のたびに仕事内容が大きく変わる点も魅力でした。
仕事のやりがいを感じるのは、どんなときですか?
木下:毎月の給与支給はもちろん、年に2回の賞与の支給に向けては、1〜2カ月かけて準備を進めます。大変ですし、たくさんの職員に影響する部分ですから緊張感もありますが、きちんと処理が完了できたときは、「よくやったな」と思います。
システムにとどまらず、制度の改革にも取り組める人材をめざす
行政の仕事やICT職に向いているのは、どのようなスタンスの人だと思いますか?
木下:いろいろなことに挑戦してみようと思える人が向いていると思います。
行政は異動が多く、部署によって仕事もガラリと変わります。もちろん、自分が希望する部署以外に配属されることもありますが、10年くらいは与えられたそれぞれの場所で努力し、パフォーマンスを発揮することが大事なのかなと思っています。
そうすれば、自分が本当にやりたい仕事に就いたときに、それまでの経験を活かして専門性を磨けるのではないかと考えています。
斉藤:そうですね。好奇心旺盛な方が向いていると感じます。
ICT職は、システムを作ったり運用したりする中で、都庁内外のいろいろな人との調整事項がとても多いので、さまざまな立場の人と分け隔てなく話ができることが大切です。
また、木下さんのように、新卒でシステム開発の経験がない人でも問題なく仕事ができるような研修体制がありますから、好奇心があればスキルも身につきます。
民間と比べても、研修は豊富に用意されているのでしょうか?
斉藤: ICT職は、自分が身につけたい分野の研修を受けることができますし、大手SIerの研修に参加できる機会もあります。学ぶ環境は十分にあると思います。
最後に、お二人がこれから挑戦したいことを教えてください。
斉藤:私たちが担当しているシステムは、基本的に都庁舎に局を設けている部署を対象にしています。それ以外にも、東京都では任命権者ごとに別のシステムを使っています。
規模がとても大きいので難しい面はあるのですが、東京都全体で一つのシステムに統一できると、コストパフォーマンスも上がると思うんです。
そのためには、制度を変えていく必要があります。せっかく行政に入ったのだから、システムのことだけを考えるのではなく、全体のバランス、効果を考えて制度も変えられるような人材になりたいと思っています。
木下: 私も先輩たちとよく、「全体で統一されたシステムがあるといいですね」という話をしています。いろいろなシステムがあって、システム間の行き来がうまくできていない部分も感じているので。
ただ、実際に実行するのはあまりにも大変だから皆が躊躇している、システムごとに独立してしまっているから全体像を知っている人がいない、という状態なのだと思います。
私自身が横断的に給与システムを取り扱えるような人材になれば、システムを統合する未来も見えてくるかもしれないと思っています。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです