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荒地のような情報インフラを再構築。開拓者精神で東京都のDXを前に進める
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SIer、メガバンクを経て、2021年に東京都庁に入庁した竹内。東京都立大学に勤務し、「荒地のようだった」という情報インフラの再構築に尽力してきました。竹内が行政へ転職した理由や、これからめざすキャリアとは。そして、上司の白濱から見た竹内の仕事ぶりと今後への期待を聞きました。
竹内(東京都/ICT職)
総務局総務部企画計理課 東京都立大学課長代理。SIerで金融機関向け情報システムの構築・運用を担当した後、メガバンクに転職。システム職として情報システムの企画・構築・運用等に携わる。2021年東京都庁入庁。東京都立大学で情報インフラの企画・構築・運用や情報セキュリティ管理に取り組んでいる。
白濱(東京都)
東京都立大学管理部 学術情報基盤センター事務室事務長。1983年東京都庁入庁。都立高校、区立中学校で学校事務を担当。その後、会計管理局で会計制度の企画・運用、都立病院での医事・庶務業務、人事委員会事務局での採用業務を経て、2020年より現職。
上司や仲間と共にパッチワーク化した通信環境と情報インフラの再構築に挑戦
──まずは、竹内さんの現在の仕事内容を教えてください。
竹内:大きく3つあります。1つめは、ネットワーク関連業務です。学内から学外へのインターネット接続やキャンパス同士をつなぐ回線、無線LANなどの通信環境のメンテナンスを行っています。2つめは、基幹システム関連業務。教員や学生が使用するメールや認証、教務システムなどを運用しています。3つめは、情報セキュリティ関連業務です。トラブルの未然防止のほか、問題が起きたときに対応する実務部隊を担っています。
一般企業でいう情報システム部門が担当する領域の中で情報インフラとも言うべきところ、サービスを支える土台を支える仕事に、10名ほどのメンバーと共に取り組んでいます。中でも、最重要課題となっていたのが、ネットワークでした。
──もともと、都立大のネットワークにはどのような課題があったのでしょうか?
白濱:都立大は4つの大学・短期大学が統合されてできたため、それぞれの学校が持っていたネットワークを単につなげたような状態、いわゆる“パッチワーク化”していて、通信環境が脆弱でした。
しかし、コロナ禍によりオンライン授業に対応できる環境整備が急務になり、ネットワーク全体を根本的に見直すことになりました。調査を行い、事業者を選定し、いざ始動するというタイミングが2021年。ちょうど竹内さんが入庁したときです。
──白濱さんにとって、竹内さんは待望の人材だったんですね。
白濱:そうですね。ICT職ですから知識が豊富なことはもちろんですが、大学ならではの事情に柔軟に対応してくれる人材を求めていました。
正直、荒地のような状態だったのですが、竹内さんはいろいろな部署を回り、丁寧に説明しながら地固めをしてくれました。実装するにあたっても大変な苦労がありましたが、部下や関連する職員、他部門を巻き込みながら進めてもらえたので、非常に得難い人材が来てくれたと実感しています。
──「荒地」という表現もありましたが、竹内さんは最初にその状況を見た時、どのような印象でしたか?
竹内:大変なところに来てしまったと思いました。
当時の環境を道路に例えると、一番太くなければいけない幹線道路が渋滞を起こしてしまっていて、どのキャンパスに行くにしてもノロノロ運転、オンライン会議も不安定という具合でした。幹線道路が一本しか通っていないことも問題で、部分的な工事をしていてはとても解消できない、という状態です。
ただ幸いなことに、すでに問題箇所は特定されていたので、あとはどう解決するのかに専念することができました。また、出会いにも本当に恵まれ、理解のある上司にやる気に満ちたメンバー、委託事業者など、いろいろな幸運が重なり今につながっています。
──進める上で苦労したことはありますか?
竹内:主には、予算と調達の考え方です。入札を前提にした契約や、単年度での予算措置など、民間企業とは違う公務ならではの難しさを感じました。
「少しでも影響力のある仕事がしたい」。DXにかける東京都の“本気”を知り転職
──竹内さんはSIerからキャリアをスタートされていますよね。
竹内:はい。私が大学に入るころ、政府がeガバメント構想を出すなど、高度情報化社会への動きが加速していました。そこで、大学では情報分野を専攻し、卒業後はSIerで金融機関向けの情報システムを担当しました。
──その後、メガバンクに転職された理由を教えてください。
竹内:私がいたSIerは中小企業をサポートすることをミッションとしていて、私もそこに共感していました。ただ、2011年の東日本大震災などをきっかけに、「今の仕事も大事だけれど、時間がかかりすぎる」「もっと影響力のあるインフラを支えるような仕事にも携わってみたい」と考えるようになったんです。
当時、金融関係のシステムに携わっていたこともあり、日本の金融インフラとも言うべき銀行に転職しました。
銀行ではシステム部門に所属し、行内向けの情報システムの構築から、新聞に載るようなプロジェクトまで、本当にさまざまな経験をさせてもらいました。
──東京都に入ろうと考えたのは、どのようなきっかけですか?
竹内:銀行に10年ほど勤める中で多くの学びがあった一方、自分の中に少しずつ停滞感を覚えるようにもなっていました。そのころから、何か世の中でおもしろい動きはないかと模索するようになりました。
その中で、東京都が2019年にTOKYO Data Highway構想を打ち出し、宮坂 学副知事のもとDXを進めていると知りました。さらに、デジタルサービス局が設置されることを知り、「東京都が本気で動いている。これはおもしろそうだ」と思ったんです。
直接ユーザーと触れ合う仕事をしたいと思っていたので、「東京都に採用してもらえるのであれば転職しよう」と応募してみたところ、運良く採っていただけました。
──実際に仕事をする中で、民間企業での経験が活きていること、違いを感じることはありますか?
竹内:システムを構築するという仕事においては、工程や気をつけるポイントに共通する部分が多いので、これまでの経験を活かせています。
違う点は、これまで以上にルールを意識するようになったことです。都の条例、国が定めた法律に基づいているので、「このルールがあるから、この仕事の仕方になる」ということを意識する必要があるんです。
また、個人的なことですが、10人規模のチームを率いる経験は初めてなので、メンバーそれぞれの得意分野を活かしながら納得感を持って働いてもらう難しさを日々感じています。
──普段の仕事で、どんなところにやりがいや楽しさを感じていますか?
竹内:毎日のように、何かしら課題が出てくることですね。予想外のことが起こった時に、それをどうやって解決するか、少しでも良い方向に持っていくためにはどうすれば良いか、考えながら試行錯誤することにやりがいを感じています。
研修は発想を広げる機会。シンガポールで「スマートシティ」の在り方を学ぶ
──竹内さんは、2023年にICT職専門研修(海外派遣研修)に参加されたそうですが、どのような内容だったか教えてください。
竹内:1週間ほどシンガポールを訪問してきました。
シンガポールは、国土が小さい、食料やエネルギー自給率が低い、少子高齢化が進んでいるなど、都との共通点が多数あります。一方で、スマートシティとして世界的にも高い評価を受けるなど、デジタル分野では大きな差がついています。この差がどこから生まれたのかを知りたかったのです。
また、昨今DXがバズワード化していて、本来の定義と異なる認識をされていることに違和感がありました。そこで、あらためて「DXとは何か」を学んでみたいと思い、特定企業によるアレンジのない純粋な学問として、大学院の公開講座も受講してきました。
──東京都のDXに活かせそうだと感じたことはありましたか?
竹内:シンガポールでは、「デジタルツイン」(現実世界で収集したデータを仮想空間に再現することで分析やシミュレーションを可能する仕組み)や、「都市OS」(サービス向上のために行政と企業のさまざまなデータを連携する土台)などが、建物の設計などにも活かされていることを目の当たりにしました。
デジタルツインは東京都でも取り組んでいますが、定義の仕方や考え方などは大いに参考になると感じました。
──竹内さんが海外派遣研修に参加されたように、ICT職は東京都の中でも研修が豊富な職種です。白濱さんは上司として、研修をどう活かしてほしいと考えていますか?
白濱:もちろん、自分の仕事に直接関係することもあると思いますが、「発想を広げる機会」として活用してほしいと考えています。
私自身、まったく異なるものをつなげて新しい価値を生み出すということを実感してきました。あるものを違う視点から見ると、別の答えが見えてきます。でも、目の前の仕事のことしか考えていないと、その発想は広がりません。
だから、研修を通してアイデアの種が一つでも見つかれば大きな意味があります。短期的には役に立たなかったとしても、5年先、10年先につながればいい。学び続けるためのツールとして研修は必要ですし、組織が強くなるためには、いろいろな知恵を持っている人がたくさんいることが大切です。
開拓者精神で、「あれはDXだった」と言われるものを残したい
──東京都でDXに取り組むには、どのような人が向いていると思いますか?
竹内:新しいもの好きであることとバランス感覚を持っていること、そして挑戦する気持ちが大事だと思います。
デジタル分野は進展が非常に早いので、常に新しいものをキャッチアップしていく必要があります。また、公務員ですから、公平性というバランス感覚を持って物事を見ることも重要です。
とはいえ、まずは挑戦してみるという気持ちが大事。ICT職として、デジタルの力で今ある業務を変えていくためには、待ちの姿勢ではなく、どんな場所でも前に進んでいくチャレンジ精神が求められていると思っています。
白濱:そうですね。新しいことにワクワクする、楽しそうだなと思える人が向いていると思います。チームとして取り組むときに、「楽しそうですね」「おもしろそうですね」と言ってもらえるとありがたいですよね。いろいろなことにワクワク感を持てる人にきていただけると、とても嬉しいです。
──これからの展望も聞かせてください。行政のDXで挑戦してみたいことはありますか?
竹内:まずは、都立大でネットワークの課題を解決することです。最大の難所は越えましたが、やるべきことはまだまだたくさんあります。
東京都全体で見ると、ワンスオンリーとコネクテッド・ワンストップに取り組んでみたいと考えています。複数の手続を一度の申請で完了できるような仕組みは、まだまだこれから。何か一つのことをやり遂げたいなと思っています。
大変だとは思いますが、後々「あれはDXだった」と言われるようなものを残したいですね。
──白濱さんは、竹内さんにどんなことを期待していますか?
白濱:理想形を求めて、先頭に立って東京都を前に進めていってほしいと思います。
DXを実現するには、組織に横串を刺して最適解を探していくことが必要です。ただ、実際には都立大のようにパッチワーク化していたり、それぞれのシステムで所管部署が違ったりと、縦割りの構造になっています。組織が大きい都庁であれば、なおさらです。
けれど、それにとらわれていると進みません。不満を持たれることもあるかもしれないけれど、最適解をめざして各部署を説得しながら前に進んでいく人が必要です。今よりさらに大変になるかもしれませんが、開拓者スピリットを持って進んでいってほしいですね。
※ 記載内容は2024年1月時点のものです