- 公開日:
- 最新更新日:
デジタル広報の発展をめざして──公式LINEリニューアルで友だち100万人達成
- インタビュー記事
- プロジェクト
- 民間企業からの転職
- 都庁各局DX
2023年1月にリニューアルした東京都LINE公式アカウント。友だち100万人を達成し、情報発信の裾野が拡大しています。このプロジェクトに携わったデジタルサービス局の高下(こうげ)と政策企画局の坂井に、デジタルサービス局と各局の関わり方、リニューアルで苦労したこと、これからの目標を聞きました。
高下(東京都/ICT職)
デジタルサービス局戦略部デジタル推進課各局支援担当・課長代理。民間企業でシステムエンジニアとしてショッピングサイト構築などに関わる。2017年東京都庁に入庁。教育庁で全都立学校へのOffice365導入やWi-Fi整備などに携わる。2021年4月より現職。都庁各局のデジタル化のサポート業務を担当。
坂井(東京都/事務職)
政策企画局戦略広報部戦略広報課戦略広報担当・課長代理。都庁入庁後、主税局、福祉局、生活文化スポーツ局を経て現職。「都民”一人ひとり”に伝わる広報の推進」をめざし、各種SNSの管理・運用、各局広報支援業務を行う。LINE公式アカウントリニューアルにおいては企画から開発・運用まで一連を担当。
各局支援担当が、デジタル化に関する大小さまざまな相談に対応
高下さんはデジタルサービス局で各局支援業務を担当しています。各局支援は、どのような仕事をしているのか教えてください。
高下:都庁の政策企画局や生活文化スポーツ局といったさまざまな局からデジタル化の相談が来た際のサポートを行っています。私たちが相談を受け、相談の内容に合わせてデジタルサービス局内やGovTech東京の専門家でチームを組成しサポートを開始します。
相談は、ツールの使い方などのちょっとしたものから、大型のプロジェクトまでさまざま。システム開発などの場合は、契約内容やシステムの要件を定める仕様書の作成などからサポートすることもありますし、すでに開発が進んでいる中で起きたトラブルに対処するケースもあります。
年間でどのくらいの相談に対応していますか?
高下:2022年度は約300件の相談がありました。今年度は4チーム体制のため、緊急度で優先順位をつけながら、1チームあたり100件ほど対応しています。
デジタルサービス局が開設されたのは、2021年4月。アピールや口コミでだんだんと私たちの存在が広まり、相談が増えてきたのかなと思います。
坂井さんは、政策企画局で都庁全体の広報を担当されています。サポートを受ける局側の立場から、高下さんのような存在がいるメリットをどう感じていますか?
坂井:技術的なサポートを受けながら仕様書を一緒に作成することができるようになったことや、委託先のベンダーとこれまでより踏み込んだやりとりができるようになったことが大きな改善点だと思います。
以前は、技術的な知識がない中で各担当者がそれぞれに仕様書を作成していたのですが、私たちのような事務職は、そもそもきちんとした要件定義や適切なコストの積算ができているかといった判断をする知識が足りません。
そのため、開発が動き出してから仕様書の表現が不明瞭だったと判明したこともありましたし、ベンダーから提案された方法がベストなのかの判断ができないこともありました。
また、東京都は組織が大きく、新しい事業も次々に始まります。事業の途中で担当者が変わることもあり、ノウハウが継承されづらいという課題もあったんです。
現在は、デジタルサービス局と一緒に仕様書を作成することで最低限の品質が担保できますし、高下さんのように専門知識がある方がベンダーとの交渉に入ってくださることで、意思疎通がしやすくなったと思います。
LINEリニューアルで「伝わる裾野」を広げ、行動を起こす広報を実現
お二人は、2023年1月に実施された東京都LINE公式アカウントのリニューアルに携わっています。このプロジェクトの背景を教えてください。
坂井:都のアカウント自体は、2020年から運用していました。ただ、リニューアル前は、都民1,400万人に対して友だち数が27万人と、LINEを使ってリーチできる絶対数が少なく、情報が広く行き届かないという課題を抱えていました。
そこで、新しく機能拡充することでデジタル広報を発展させていこうとリニューアルを企画しました。
高下さんには、どの段階で相談したのでしょうか?
坂井:企画が固まった後すぐの段階で、かなり粗い仕様書を握りしめて相談しました。
広報の分野だけでは収まらない、システム開発を伴う一大プロジェクトだったため、何をどうしたらいいのかわからない状態からのスタートで、相当な負担をおかけしました……。
高下:初期段階で相談をもらうことはありますから、「始まるな」という感じでした(笑)。
このプロジェクトで特徴的だったのは、坂井さんと何度もラリーを繰り返して進めていったことです。仕様書全体の構成からシステムの細かい要件まで、大小さまざまな検討を重ねました。こちらからの提案に対して、「では、ここも同じようにした方が良いですよね」と返ってくるので、結果的にかなり精緻に進めることができました。
坂井:仕様書のコメント履歴が、ものすごい量になりましたよね(笑)。高下さんに後から、あの時は千本ノックだったと言われたことを思い出しました。
仕様書を書く人間と実際にその仕様書を基に開発や運用に携わる人間が異なることがままあるため、「無事リリースさせるためにも、わからないことは今解消しておかないと」と思ったんです。
仕様書で要件定義などを明確にしておくことは、都の事業を進める上での第一歩というか、最初の大事な要素だと感じます。
リニューアルしたことで、どのような効果があったのか教えてください。
坂井:一番目に見える効果としては、目標としていた友だち100万人を達成しました。これは、機能拡充と併せて実施した人気クリエイターとコラボしたLINEスタンプの無料配布キャンペーンや、広告のターゲティング・投下量などもうまく機能した結果です。
また、いろいろなイベント情報なども発信しているのですが、イベントを所管している部署からは、「LINEを見て来ました」という方も増えていると聞いています。
どんなにいいサービスがあっても、必要とする人に伝わらないと意味がありませんので、LINEから情報が伝わり、さらに情報を受け取った人が行動を起こしてくれていることを実感できています。
高下:このプロジェクトはいろいろと大変なことがありましたし、これだけ初期段階から関わる案件は多くないので、目に見える成果が出ているのはとても嬉しいですね。
いつも、「都民のために東京都がある」と意識しながら仕事をしているので、こういう成果を聞くと、あらためて苦労して良かったと思います。
入札でベンダーが決まることが難しさの一つ。背景や行間を読んで意思疎通する
プロジェクトを進めるにあたり、いろいろ大変なことがあったとのことですが、一番苦労したのは、どんなところですか?
坂井:まず思い当たるのは、コンテンツの整理です。トーク画面の下に固定表示されるリッチメニューをどう見せるかに悩みました。
都にはたくさんのサービスがありますが、“全部盛り”にはできません。これまで掲載していたコンテンツを、どうそぎ落として何を新しく入れるか、どんな階層にするかを考えるのに相当な労力が要りました。
また、デザインも特にこだわった点です。戦略広報部には、デザインスキルやPRに長けた職員もいるので、自分たちでベースを考えました。
システム開発の進行面で苦労したのは、ベンダーとの調整です。私たちでは調整しきれない部分が多くあり、高下さんをはじめ、トラブルに応じてアサインいただいたデジタルサービス局の専門家の方々に何度も助けていただき、本当に感謝しています。
高下:たしかに、ベンダーとのやりとりは苦労した点ですね。開発期間がタイトだったこともあり、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)をどう調整していくか、徹底した意思疎通が必要だったのです。
行政の場合、入札でベンダーが決まることが難しさの一つ。仕様書はあるものの、必ずしもこちらが求める要件をすべて満たしてくれるベンダーや、行政との仕事に慣れているベンダーが落札するわけではありません。
それはベンダー側も同じで、開発が進んでいく中で「思っていたより大変だった」というケースもあります。
そういった場合に、コミュニケーションで気をつけていることはありますか?
高下:私自身、前職はベンダー側でしたから、表に出ない内部の状況などを、ある程度予想できます。その上で、プロジェクトマネジメントや技術的な観点から言うべきことを言うようにしています。
坂井:高下さんは、行間を読んでコミュニケーションをとるのが上手なんですよね。相手の状況をよく見て、相談者に寄り添ったサポートをしてくれます。そこも、すごく勉強になりました。
高下:普段相談に来る各局の職員も、デジタルの知見や理解度はさまざまです。実際はどこに困っていて、何をすれば役に立つのかという本当のニーズを見極めることを心がけています。相手が望んでいる深度まで手伝えなければ、信頼関係が作れませんから。
どの仕事も「東京をつくる」ことにつながる──行政だから感じる仕事のやりがい
高下さんは民間から転職されていますが、東京都で仕事をしてみて感じるやりがいを教えてください。
高下:これは行政に転職した理由でもあるのですが、「純粋に世のため人のために仕事ができる」ということです。
民間企業では目標予算を課されますから、お客様に良いものを提供しつつも、どうしても裏側で予算達成というプレッシャーがあります。でも行政の場合、「住民のため、社会のため」が最優先される。私には、そういうスタンスで仕事ができる環境はとても心地よいですね。
坂井さんは、これまで東京都で仕事をしてきて、どういった人が東京都に向いていると考えていますか?
坂井:自分自身もそうなのですが、「東京が好きな人」です。
都には本当にさまざまな職場・仕事があるので、採用後すぐに希望の部署に配属されるとは限りません。働いていく中で「自分は何のために都の職員になったのか」と考える瞬間が、きっと一度は来ると思います。
でも、都の仕事って、どの部署であっても「東京をつくる」ことにつながっているんです。「東京が好き」という強い想いがあれば、いつでも原点に立ち戻れると思っています。だからこそ、東京が好きな人に入ってきてほしいです。
坂井さんの想いが伝わってきますね。最後に、これから東京都で挑戦したいことを教えてください。
高下:行政で仕事をしてきた中で課題に感じているのが、事業を委託先やベンダーに丸投げするケースがあるということです。そうではなくて、都の職員が事業やプロジェクトのオーナーであり、職員自ら主体的にプロジェクトを推進、マネジメントするという意識を根付かせたいなと考えています。
デジタルサービス局には、民間企業で自分のプロジェクトを自分でマネジメントしてきた経験を持っている職員も多くいます。また、宮坂 学副知事をはじめ、役職が上の人たちとの距離も近く、民間以上に「オープン&フラット」のマインドで仕事ができる感覚です。
そういった文化を持つ私たちがきっかけとなり、スキルだけではなくマインドの部分でも新しい空気を浸透させていきたいですね。
坂井:私は、「都民“一人ひとり”に伝わる広報」をめざしています。ただ漠然と発信するのではなく、届けるべき「一人ひとり」のお顔や生活を想像しながら情報を届けることが大事です。
今回のLINEリニューアルは、まさにその一つで、受け取り側が自分の状況にあった情報を選択できるようになっているんです。
こういった面からも、もはや広報においてデジタル化は欠かせません。これからもデジタルサービス局と連携して、「都民のため」という同じ目標に向かって広報の発展を図っていきたいですね。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです