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大切なのは技術よりも行政としての考え方。DXの裾野を広げるデジタルの“総合案内”
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行政サービスの品質向上のため、都庁内のDXを進める東京都。民間企業でシステムエンジニアとしてキャリアを積んだのち都庁に入庁した佐藤は、都政とデジタルをつなぐICT職として、課長の田村と共に総務局のDX推進に取り組んでいます。ICT職がいることのメリットや行政DXに必要な考え方を2人に聞きました。
佐藤(東京都/ICT職)
総務局総務部企画計理課デジタルシフト推進担当課長代理(デジタルサービス局よりICTの支援担当として総務局に兼務で配属。ICT職)。民間企業でIoTサービスのPMや情報処理技術者試験委員などを経験した後、2016年東京都庁入庁。庁内の無線LANやテレワーク環境の整備に従事。2023年より現職。
田村(東京都)
総務局総務部企画計理課課長。2004年東京都庁入庁。建設局からスタートし、都市整備、防災関係の業務に携わった後、2022年より現職。総務局のICT兼務職員と共に、局のDX推進を担っている。
最初に相談を受ける“総合案内”として職員の困りごとをサポート
──佐藤さんはデジタルサービス局との兼務で、ICT職として総務局のDX推進をサポートしています。具体的には、どのような役割ですか?
佐藤:デジタルに関する“総合案内”のような役割です。特定のシステムを開発するわけではなく、局の職員がデジタル分野でわからないことがあった時に、最初の相談窓口として私たちが対応します。
総務局をはじめ都庁各局の職員は、デジタルにあまり詳しくなくてもシステム開発や運用の担当になることがあります。でも、ベンダーとの契約内容やシステムの要件を定める仕様書を作成するとなっても、何から始めたら良いのかわかりません。
そこで、私たちが窓口としてアドバイスをしたり、必要であればデジタルサービス局の専門知識を持った職員とつなげたりしてサポートしています。
田村:ある程度大きな案件であれば局を超えた相談もしやすいのですが、「ちょっと聞いてみたい」というような場合は敷居が高いんです。局の中にデジタル分野に詳しい人がいることで、かゆいところに手が届くように困り事を受け止めてくれます。
──デジタルにあまり詳しくない人と接することが多いと思いますが、コミュニケーションをとる上で心がけていることを教えてください。
佐藤:なるべく専門用語を使わずにイメージを共有することです。たとえば、システムを建物に置き換えて、すでにある部屋を改装するのか、新たに部屋を作るのかなどを図解して説明したりします。
細かい内容や技術については私たちICT職や委託先であるベンダーに任せてもらえば良いのですが、同じイメージを持っているかどうかで、やりとりする際の理解度はかなり変わります。
──田村さんは、佐藤さんのようなICT職が局内にいることのメリットをどう感じていますか?
田村:やはり、デジタルに詳しい職員が身近にいるというのは大きな安心材料です。以前は、仕様書を作るとなれば他局の似たような事例を調べて、わからないなりに見よう見まねで作っていた部分がありました。そのため、契約後にベンダーと齟齬が生まれたり、提案された内容の是非を判断できなかったりといったこともあったんです。
ICT職がいることで、契約段階でこちらの意思を正しく伝えることができ、しっかりとスタートを切れるようになったことが大きな変化です。
佐藤:実際、過去の仕様書は、元となる仕様書をカスタムして、それをまた別の局がアレンジしてといった具合に受け継がれていて、“間違えた秘伝のタレ”のようになっていたんです。標準的なものからかけ離れてしまっていました。
そういった偏りをフラットな目線で修正することも、私たちの役割です。
民間のSEから行政へ。誰もが当たり前に使える都庁内のデジタル環境を整備
──佐藤さんは、2016年に民間企業から東京都に転職されています。以前はどのような仕事をしていたのか教えてください。
佐藤:入庁前は、3社でシステムエンジニアとしてキャリアを積みました。携帯電話の端末や基地局に関するシステムを受注する立場からスタートし、その後は自社でプロダクトを作って提供する会社に転職。システムエンジニアは、技術のプロフェッショナルをめざすか、プロジェクトをマネジメントする立場をめざすかという選択肢がありますが、私はマネジメント側を選びました。
──行政に入ろうと思ったのは、どのような理由からですか?
佐藤:自社のプロダクトに関わるようになったことで、より広く利用されるシステムに、さらに上流から関わりたいと思ったのです。
システムを作る際に上流はどこかと辿っていくと、大元の制度や仕様は行政が決めていることが多いんです。最上流に近いところで仕事ができること、そして行政なら働き方に余裕が持てるのではないかと考えて転職しました。実際は、しばらくの間すごく忙しかったのですが(笑)
──その忙しかった時期は、どのような仕事を担当していたのでしょうか?
佐藤:主にTAIMS(東京都高度情報化推進システム)の整備です。当時は庁内にWi-Fiがありませんでしたから、その導入をはじめ、テレワーク環境の整備や外部データセンターへの移転などを担当しました。
都庁の職員が使う環境となると、数万人規模。それをある程度の裁量を持って進められたことは大きな経験になりました。何より今、誰もが当たり前に使えているということが一番の成果だと感じますし、コロナ禍でテレワークという選択肢をとれたことは東京都にとって大きなメリットだったのではないかと思います。
──DXの基盤を作るという意味でも大きなプロジェクトだったと思いますが、とくに苦労したことはありますか?
佐藤:技術的なことよりも、関係各所とのコミュニケーションに苦労しました。入庁以前は周りにデジタル分野に長けた人ばかりがいる環境でしたが、都庁ではICT職は少数派。ほとんどの人は私たちがどんな仕事をしているのか知りませんし、共通言語も異なります。
その中で調整をしていく必要があったので、コミュニケーションの取り方や説明の仕方を学ぶことができました。
誰もが100%満足する解決策はなくても、多くの人に納得してもらえる方法を探す
──現在は総務局内でのDX推進を担当されています。やりがいを感じるのはどんな時ですか?
佐藤:先ほどお話したように、総務局の職員からすれば、ICT職は何をしているのかわからない部分があると思います。でも、1回相談を受けた後に気軽に相談してもらえるようになると、信頼を得られた証拠だと感じて嬉しいですね。
──田村さんは、ICT職の存在がDX推進につながっていると実感することはありますか?
田村:職員の日常業務で使えるノウハウもアドバイスしてもらえるので、デジタル化の裾野が広がっていると感じます。たとえば、何かを集計したいと思った時に、どういったツールを使えば簡単にできるのかといった相談もできます。
DX推進のためには、まずは自分の業務が効率化できる、便利になると実感できることが大事だと思うので、そういった環境ができてきたと感じています。
──ICT職は少数派なゆえコミュニケーションの苦労があったとのことでしたが、他にも行政ならではの文化に戸惑ったことはありましたか?
佐藤:ICT職に限らず、定期的に人事異動があることです。場合によっては、同じ仕事をしているチームの内、自分以外の全員が異動になることもあります。そうなると、引き継ぎや運用に苦労するんです。
田村:確かに、システム開発などは数年かけて進めていくものもありますが、開発途中で異動になることもあります。そこは行政の難しいところですが、だからこそICT職のサポートを受けられる体制ができてきたことは大きな意味があると思います。
──転職の背景に、「より広く利用されるシステムに、さらに上流から関わりたい」という想いがありましたが、実際に行政に入ってみてどう感じていますか?
佐藤:行政の場合、ユーザーは庁内であれば職員、庁外であれば都民です。不特定多数の人が広く使うことを想定して作るためには、前提となる制度や条件、制約事項などを揃えて、大多数の人に納得してもらうことが大切です。
誰もが100%満足する解決策はなかなか出てこないのですが、なるべく多くの人に納得してもらえる方法をめざして、決定までの経緯をきちんと説明できるよう理論的に物事を考えることが必要だと感じています。
技術はあくまで選択肢の一つ。大事なのは、事業にコミットして課題を解決すること
──佐藤さんのチームには入庁1〜2年目のICT職のメンバーもいるそうですね。育成の面で心がけていることを教えてください。
佐藤:最初に、「大学や前職で学んできた技術は通用しない」と知ってもらうことです。ICT職として入庁している以上、デジタルの知識や技術に一定の自信があるものですが、その自信をポキッと折ることから始めます。
というのも、技術はあくまで解決に向けた選択肢や引き出しの一つ。とくに私たちは“総合案内”なので、その立場で技術論を振りかざすと、解決までの道のりをミスリードしてしまいます。
まずは相手の要望や意見に耳を傾け、どういった解決策があるかを考える。そして、その解決策にはどの選択肢、引き出しが最適かを考えることが重要です。
田村:あくまで、行政サービスの課題をデジタルで解決するというアプローチなんです。職員が使うものも都民が使うものも、100%の人が納得するものはありませんし、費用面や技術面での制約もあります。その上で、誰ひとり取り残されないようにする視点も必要です。こういった行政としての基本的な考え方がベースにあることは大事ですよね。
佐藤:技術を取り入れて終わりではなく、その技術がどう役に立つか。そこまで見据えた上でデジタルを活用した解決策を提案することが、私たちに求められています。
──これからの展望も教えてください。今後チャレンジしてみたいことはありますか?
佐藤:何かに特化するよりも、いろいろなことに対応できる土台を強くしていきたいと考えています。人事異動もある中で、どこに行ってもスキルを吸収しながら、自分の力を柔軟に発揮できることをめざしています。
──田村さんは、佐藤さんのようなICT職に、これからどんなことを期待していますか?
田村:各局の中にICT職が置かれるようになったことで、事業への理解が深まり、私たちがめざすゴールによりコミットした解決策を提案してもらえるようになったと感じます。
まだ歴史の浅いチームですが、いま佐藤さんたちが作っている土台を脈々と受け継いでもらい、事業の効果をさらに高めていってほしいと思います。
※記載内容は2024年1月時点のものです