- 公開日:
- 最新更新日:
学びの舞台は世界。ICT職が自ら研修先を選ぶ「海外派遣研修」とは?
- インタビュー記事
- プロジェクト
- 育成
- 人材育成
東京都は、進化の速いデジタルテクノロジーの最前線を学び、都政の課題解決に役立てるため、2022年度からICT職を対象に「海外派遣研修」制度を導入。渡航先や学ぶ内容を研修生が自ら考えるこの研修は、ICT職の職員にとって貴重な挑戦の場となっています。今回は、研修の目的や現地での学びについて、デジタルサービス局総務部デジタル人材戦略課の古瀬に話を聞きました。
古瀬(東京都/事務職)
デジタルサービス局総務部デジタル人材戦略課職員。
2016年東京都庁入庁。教育庁で8年間勤務したのち、人事異動で現所属。
海外派遣研修の背景・目的
海外派遣研修の実施背景や導入した目的を教えてください。
海外派遣研修を導入した背景には、日本全体でのデジタル競争力が低下している現状があります。世界のデジタル分野での競争力ランキング※1においても、日本は低迷を続けており、これは東京都にとっても喫緊の課題です。
DXを推進し、先進都市としてさらに世界をリードするため、東京都では、ICT(情報通信技術)を活用して都の課題を解決するICT職の任用を2021年度から開始しました。しかし、移り変わりの激しいデジタル分野で、最新の技術や情報をキャッチアップし続けることは容易ではありません。
そこで、ICT職が最先端のデジタル技術やグローバルな視点を習得するため、海外派遣研修制度を導入しました。研修を終えた後は、その成果を庁内外に公開して、都政全体のDX推進に役立てています。
※1 IMD(国際経営開発研究所):世界デジタル競争力ランキング2024(日本は31位)
海外派遣研修の事例
これまでの事例を教えてください。
2022年度に始まった海外派遣研修は3年目を迎えますが、2023年度までに7名のICT職が参加しました。初年度はグループ研修として、米国での研修プログラムを実施。「デザイン思考・ユーザーセントリック」をメインテーマとして米国企業を訪問し、取組事例を調査しました。
2023年度からは個人単位での研修が開始され、4名のICT職がそれぞれデンマークやアメリカ、シンガポールなどを訪問しました。先進的な事例を持つ自治体の視察やワークショップへの参加を通して、各国の最新のデジタル技術やグローバルな視点を取り入れる機会が広がっています。
▸これまでの研修事例は、デジタルサービス局のホームページから確認できます。
海外派遣研修の流れ
研修の具体的なフローを教えてください。
海外派遣研修は、これまでの成果を振り返りながら、毎年フローやスケジュール、内容の改善を続けています。そのため、年度によって一部変更が生じる場合もありますが、現在は研修の申込から研修終了後の報告会まで約1年をかけて実施しています。
まず、参加を希望するICT職は、自身が設定した学習目標や訪問先の候補を含めた研修計画書を作成。その後、研修計画書をもとに、デジタル人材戦略課やGovTech東京のメンバーが面接官を務めるプレゼンテーション審査に臨みます。審査では、企画内容とともに現地での対応に必要な英語力も評価されます。一定の基準を満たした場合は、研修生候補として選出。応募から選出されるまでの期間は、おおよそ1〜2か月です。
研修生候補となったICT職は、面接官からのアドバイスやフィードバックをもとに計画を再考し、さらに実現性を高めたものに仕上げていきます。そうして骨組みが決まった段階で、訪問予定の海外自治体や関係機関へ直接アポイントメントを取り、プランを具体化。最終調整が完了すると、正式に研修生として認定されます。こうした準備は、少なくとも1か月、時には数か月をかけて丁寧に進められています。
実際の研修では、現地にて数週間から1か月程度滞在し、計画に沿って最新技術や専門的な知見を吸収していきます。帰国後は、約2か月をかけて報告書を作成。全庁の職員が参加可能な「渡航報告会」でプレゼンテーションを行います。
研修を受けられる人はどんな人ですか?
ICT職に就いて2年目以降の職員であれば、役職や年齢を問わず立候補できます。2024年度の定員は6名で、個人またはグループ単位での申込が可能な形で実施しました。研修にあたっては、訪問先のアポイントメントやヒアリングなど、研修生自身がコミュニケーションを取るため一定以上の語学力が求められますが、必要に応じて通訳によるサポートも提供しています。また、研修生同士の交流も盛んで、語学学習の進捗を共有しながら切磋琢磨し合い、成長を支え合う姿も見られます。
研修先や渡航先はどのように決まりますか?
研修先は、職員が学びたいデジタル分野や解決すべき業務課題に基づいて選定します。たとえば、アプリ開発を担当するICT職が、ユーザー目線の開発方法を学ぶために海外の自治体を訪れたケースがありました。その際、現行業務への応用にとどまらず、生成AIやクラウドサービスなど、将来におけるスキルの活用を見据えて計画を立てることも可能です。また、自治体などの行政関連組織や大学院、IT企業など、2か所以上の訪問先を組み合わせることで、都に多くの先進事例を持ち帰ってもらっています。
研修で得られた知見はどのように活用されていますか?
現地で得た知見は、渡航報告書として各研修生がまとめています。毎年、渡航報告会を開催して海外での学びを庁内で共有し、都全体で活用できるようにしています。
さらに、渡航報告書はデジタルサービス局のホームページや東京デジタルアカデミーポータルサイトでも公開。都民や全国の方々にも、デジタルテクノロジーのトレンドを広く役立ててもらうことを目指しています。
海外派遣研修で得られるもの
研修に参加したICT職からはどのような声がありますか?
研修生からは、オンライン取材や講座では得られない、実地研修ならではのメリットを実感する声が寄せられています。たとえば、大学の公開講座での講義後に教授へ直接質問したことで新たなコネクションが生まれたり、イベントの登壇者から海外の機関や知人を紹介され、さらに交流が広がった例もありました。こうした人脈作りができるのは、実地研修ならではの魅力です。
また、海外の公開講座で周囲から刺激を受けたという前向きな意見も聞かれています。現地での直接的な経験と出会いが、研修生にとって成長の大きなきっかけとなっているようです。
▸海外派遣研修の体験談は、こちらの記事で確認できます。
最後に、ICT職が海外派遣研修に挑戦する魅力や得られるものを教えてください。
海外派遣研修の魅力は、海外の先進事例を学ぶだけでなく、デジタル技術を都政に活かすための企画力や、学んだ知識を実際の施策に反映する実践力が身につく点にあります。また、訪問先で効果的にヒアリングするには、都のデジタル化の現状や課題を事前に理解しておく必要があります。こうした実践を通じて、自分自身がDX推進の原動力となる視点や、成果を発信する力が自然と磨かれていくと考えています。
東京都はデジタル分野に関しても先進的な取組を行なっており、他の自治体から問合せも多く受けています。最新の海外事例をいち早く把握し、実践へとつなげるICT職は、東京都のデジタル施策をリードする重要な存在。海外派遣研修は、準備に労力を要する場面もありますが、得られる成果は本人のみならず、都政全体にとっても大きな財産となるはずです。
ICT職の皆さんにはぜひ海外派遣研修に挑戦していただき、未来の東京をけん引する人材として成長していただけたら嬉しいです。