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サービスデザインガイドラインで、デジタルサービスをもっと使いやすく、もっと分かりやすく。
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東京都は、都民の暮らしをより便利で快適にするため、デジタルサービスの品質向上に取り組んでいます。その土台となるのが「サービスデザインガイドライン」です。サービスの品質向上と利用者視点の開発を進めるために策定され、2024年3月にVer.2.0.0、2025年3月にVer.2.1.0が公開されました。
本記事では、ガイドラインの運用を推進するAさんとHさんにインタビュー。ガイドライン策定の背景や、活用事例について聞きました。
(記事中の組織名称は配属当時のものです)
A(東京都/ICT職)
デジタルサービス局デジタル戦略部デジタル戦略課技術管理担当
H(東京都/事務職)
デジタルサービス局デジタル戦略部デジタル改革課デジタル改革担当
サービスデザインガイドラインとは?
サービスデザインガイドラインとはどのようなものでしょうか?
東京都のサービスデザインガイドラインは、都民にとって使いやすいデジタルサービスを提供するための指標となるものです。都職員が利用者視点で設計・開発を進められるように、サービスの企画から運用までの流れを整理して、具体的な手法を体系化しています。
このガイドラインは、2022年に策定された「東京都デジタルサービスの開発・運用に係る行動指針」の考えを踏まえて作成されました。指針は、デジタルサービスの開発・運用において大切にすべき価値観を示した「行動規範」と、その規範を現場で実践するための技術基準や開発手法を体系化した「機能別技術ガイドライン」により構成されています。
「機能別技術ガイドライン」の中でも、ユーザー視点のデザインを推進し、行政サービスの使いやすさを高めることを目的に策定されたのが、サービスデザインガイドラインです。
サービスデザインガイドラインを導入した背景と経緯を教えてください。
これまで東京都では、提供するデジタルサービスの品質にばらつきがあり、全体での統一や改善がしづらい状況でした。

こうした課題に対応するため、サービスデザインガイドラインの導入を検討しました。ただ、行政には独自の契約や手続の仕組みがあり、一般的な開発手法をそのまま取り入れるのは容易ではありません。
また、UXデザインの分野では、試行錯誤を重ねながら改善を進めるアジャイル手法が理想とされていますが、行政の場合、一度決まった内容を途中で大きく変更するのは難しく、計画的に進めるウォーターフォール型のアプローチが基本となります。そのため、東京都の仕組みや開発プロセスに合わせて、より効果的にサービスデザインを運用する方法を模索する必要がありました。
そこで、デジタルサービス局内にUI/UXワーキンググループを設置し、デザインファーム等のエンジニアと連携しながらガイドラインを策定。民間の成功事例を参考にしながら、東京都に適した手法を検討しました。その一例として採用されたのが、デジタルサービスを成立させるうえで必要な要素を網羅的に把握できる「東京都サービスキャンバス」です。また、海外の行政における事例や有識者会議の知見を取り入れ、東京都の業務フローに沿ったガイドラインを構築しました。
サービスデザインガイドラインの特徴
サービスデザインガイドラインは、ユーザーテストとサービスキャンバスを軸に構成されています。ユーザーテストとは、開発中のサービスをテスターに試用してもらい、使いやすさや分かりやすさを検証する手順のこと。サービスキャンバスは、サービスの利用者や提供者が抱える課題を分析し、解決策を整理して関係者と共有するためのフレームワークです。
まず、ユーザーテストの内容と、これまでの実績について教えてください。
2021年、東京都は「テストしないものはリリースしない」を合言葉に、「ユーザーテストガイドライン」を策定しました。このガイドラインは2023年1月に改訂され、ユーザビリティテストから開発初期のユーザーリサーチ、プロトタイピングに至るまで、ユーザーテストの手法が体系的にまとめられています。
当初、ユーザーテストガイドラインとサービスデザインガイドラインは別々に運用されていましたが、全体の開発プロセスに関わる内容であることから、2024年に統合。より網羅的な内容にアップデートしました。
ユーザーテストの実施件数は、2021年度は48件、2022年度は109件、2023年度は190件と年々増加しており、サービス開発の現場に浸透してきました。ユーザーテストは、サービスデザインの根幹を支える重要な取組です。より良いサービスを提供するには、利用者の声を継続的に取り入れ、開発の各フェーズでのテストが欠かせません。今後も、リリース前の品質を確保し、より使いやすいサービスの実現を目指します。
続いて、東京都サービスキャンバスとはどういった取組でしょうか?
東京都サービスキャンバスは、事業構想のフレームワーク「リーンキャンバス」を都庁向けにカスタマイズし、デジタルサービス開発に適用しやすい形に整えたものです。ガイドラインで方法論を示すだけでは実践に繋がりにくいという課題を踏まえ、都職員が具体的に活用できるツールとして作成されました。
企画段階でキャンバスを作成すれば、提供者の視点に加え、利用者のニーズを反映したサービス設計が可能になります。さらに、事業企画の担当者が作成したキャンバスをチームで共有し、プロジェクトの進行に合わせて更新することにより、サービスの質を高めています。
現在、一定規模のプロジェクトではキャンバスの作成が必須となっており、活用されたプロジェクトの数は毎年100件以上。都庁内での運用が浸透し、よりユーザー視点に沿ったサービスデザインの実現に繋がっています。
※「東京都サービスキャンバス」の取組は、こちらの記事でも紹介しています。
ガイドラインを活用した具体的な取組
ユーザーテストが反映されたプロジェクトやサービス改善の事例を教えてください。
まず、東京消防庁によるホームページのリニューアルです。2024年、東京消防庁は、火災予防や救急情報、災害件数などの統計を、より分かりやすく提供するためにホームページを刷新しました。

このリニューアルに向け、テスターとなる都民の協力を得てユーザーテストを実施。パソコンやスマートフォンを使いながら操作性を検証してもらい、利用者がどのように情報を探しているのかを分析しました。また、サイトの構成や導線を見直し、より直感的に操作できるデザインを追求。多様な利用パターンを把握し、必要な情報にスムーズにアクセスできる仕組みを実現しています。
続いて、産業労働局が実施した「東京食めぐり」デジタルスタンプラリーの専用ホームページの改善です。
東京産食材の魅力を広めるために開催された本イベントでは、専用ホームページのユーザーテストを実施。実際の利用者に試作品を操作してもらい、使いやすさを検証しました。
ユーザーからのイベントのスケジュールをより分かりやすくしてほしいという声を受け、開催期間や対象エリアをトップページに明示。さらに、対象店舗を探しやすくするため、一覧表示に加えて地域やキーワードでの検索機能を追加しました。
実際のユーザーの声をもとに改良を重ねることで、情報をより直感的に探せるホームページへと仕上げています。
※これらの詳細は、都政の構造改革ポータルサイト「#シン・トセイ」からご確認いただけます。
▸東京消防庁ホームページのリニューアルに関する取組
▸「東京食めぐり」デジタルスタンプラリーの専用ホームページの設計に関する取組
サービスデザインガイドラインの普及に向けてどのような施策を実施していますか?
eラーニングやワークショップ、メールマガジンの配信などを全庁で実施しています。
eラーニングマンガは、初めてサービスデザインを学ぶ方でも取組やすいよう、親しみやすいキャラクターによる対話形式で進行。東京都版LMS(Learning Management System)や東京デジタルアカデミーポータルサイトで配信し、手軽に視聴できる環境を整えています。
また、実戦形式のワークショップも開催しています。これまでに、サービスキャンバス作成編、サービスキャンバス活用編、ユーザーテスト編、といったテーマで2024年度は計4回実施しました。
当初はデジタルサービス局職員やICT職を中心に実施していましたが、現在は全庁へと対象を拡大。様々な部署や職種の職員が参加し、サービスデザインの考え方が庁内に広がっています。
都民に寄り添うデジタルサービスへ向けて
サービスデザインガイドラインの意義を教えてください
東京都全体で統一された基準のもと、質の高いデジタルサービスを提供できるようになったことに意義があると考えています。これまでもサービスを企画する際は利用者を意識して取り組んでいましたが、その声をどのように反映するかは明確な基準がありませんでした。

ガイドラインの策定により、利用者の声を取り入れ、早い段階で改善するプロセスが標準化されました。特に、サービスキャンバスの活用や各フェーズでのユーザーテストを明文化したことで、デジタルサービスの企画や開発に慣れていない方でも実践しやすくなっています。早い段階で課題を見極め、リリース前にもう一度精査する。この流れが都全体に浸透したのは、大きな意味を持つと感じています。
最後に、サービスデザインガイドラインの展望を教えてください
都職員からは「利用者視点の重要性をあらためて認識した」「ユーザーテストの意義が明確になった」などの声が寄せられています。こうした運用現場からのフィードバックをもとに、ガイドラインの改訂を重ね、より実践しやすい内容へと進化させています。
2024年3月には、ユーザーテストガイドラインを統合したVERSION 2.0.0を公開。合わせて、開発プロセスを体系的に整理した上で、各工程の進め方を明示し、より実践しやすい内容となりました。2025年3月にはVERSION 2.1.0がリリースされ、今後もさらなる改善を図っていきます。
また、より実践的に学べるよう、教材の拡充にも取り組んでいます。例えば、サービスデザインの優良な実践例を集めた事例集では、事業を担当する職員の声を交えながら、サービスデザインの活用イメージを分かりやすく伝えています。さらに、マンガを活用した教材を制作。本記事を掲載している「東京都デジタル人材採用情報サイト」を題材に、企画からリリースまでの過程をストーリー形式で描き、サービスデザインを直感的に学べる内容に仕上げました。
今後も日々の業務で役立つ情報をタイムリーに提供していく予定です。誰もが使いやすいデジタルサービスを実現するため、サービスデザインのさらなる普及・浸透を目指します。