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ICT職に必要なスキルとは?事務職からのキャリアチェンジで得た新たな視点
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東京都では、DXを推進するICT職に必要な能力として、技術力(DQ)と行政力(GQ)を定義し、体系的なキャリア形成を支援しています。DQとは、デジタル技術を活用した課題解決力。GQは行政の仕組みや法律知識、調整力といった行政職員に求められるスキルを指します。
今回は、事務職として入庁し、その後ICT職へキャリアチェンジした2名の職員にインタビュー。具体的な業務内容や、DXの強化において求められるスキルについて聞きました。(記事中の組織名称は配属当時のものです)
鳥井(東京都/ICT職)
デジタルサービス局デジタル基盤部デジタル基盤運用課課長代理(プラットフォーム調整担当)、デジタル基盤部デジタル基盤課課長代理(クラウドインフラ担当)兼務
2011年東京都庁に事務職として入庁。港湾局で2年間従事した後、スポーツ振興局へ異動し、以降、東京オリンピック・パラリンピック関連業務に携わる(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会への派遣も経験)。2021年にICT職へ職種転換。
飯野(東京都/ICT職)
デジタルサービス局総務部総務課 GovTech東京 DX協働本部 都政DXグループ 派遣
民間企業の家電メーカーでソフトウェア開発を担当。2022年に事務職として東京都庁に入庁した後、ICT職へ職種転換。
キャリアの転機で再び芽生えた、デジタルへの思い

はじめに、お二人のご経歴と現在の仕事内容を教えてください。
鳥井:大学院卒業後、東京都に事務職として入庁しました。最初の配属先は港湾局で、2年間にわたり現場での業務を経験。その後、招致最終段階から大会終了までオリンピック・パラリンピック関連業務に携わり、大会計画の取りまとめなど幅広く担当しました。
その後、ICT職に転換。現在は事業者が一度提出した情報を二度提出しなくてもよい“ワンスオンリー”を目指した「手続サクサクプロジェクト」の他、庁内認証基盤に関する業務やポイント関連事業にも関わっています。
飯野:前職は、家電メーカーでソフトウェアの開発に携わっていました。3年間の勤務を経て、東京都に事務職として入庁。現在はICT職にキャリアチェンジして、2年目を迎えています。
主な業務は、庁内の契約事務や請求手続におけるデジタル化の推進です。従来、紙ベースで行われていた納品書や請求書の処理を電子化する「東京都契約請求システム」構築プロジェクト※において、職員及び事業者の負担軽減や手続の簡略化に取り組んでいます。
※「東京都契約請求システム」の構築については、こちらの記事でも紹介しています。
お二人とも事務職からICT職へ職種転換されていますが、その理由を教えてください。

鳥井:大学では情報工学を専攻し、プログラムを組むなど、ひたすらパソコンと向き合う日々を送っていました。東京2020大会の終了を機にキャリアを見つめ直した時、「子供のころからずっと、デジタルが好きだったな」と思い出して。新設されたICT職に挑戦することを決めました。
飯野:入庁後は、勤怠管理をはじめとする庶務業務を担当していました。課内には、システム開発に取り組む別のチームがあり、仕事ぶりを間近で見る機会があったんです。その姿に触れるうちに、私がもともと抱いていた「行政のデジタル化に対する関心」や「これまでの経験が活きる仕事がしたい」という想いが再び芽生えてきて……。
課内異動があり、事務職1年目の後半からシステム開発に携わる機会をいただきました。そして翌年、ICT職へキャリアチェンジし、より本格的な取り組みを進めています。
それぞれのプロジェクトは、どのようなチーム体制や役割分担で運営されているのですか?
鳥井:手続サクサクプロジェクト(事業者データベース)は、GovTech東京との協働事業です。システムの設計・開発はGovTech東京が手がけて、庁内での調整や展開は私と事務職職員の2名で担当。都側の推進役として、プロジェクト全体の進行状況を管理しながら、各局や国等との調整、予算要求、データベース活用の企画、計画作成などを進めています。
飯野:東京都契約請求システムは、複数年をかけて進行する長期プロジェクトで、多くのメンバーが関わっています。進め方は、鳥井さんのプロジェクトと同様に、GovTech東京や委託ベンダーと連携しながら進行しており、ICT職を含む約20名で構成され、役割分担しながら取り組んでいます。
様々なステークホルダーと連携する中で、私たちICT職が担うのはプロジェクト全体の統括です。進捗を管理しながら、庁内と連携し、プロジェクトの円滑な推進を図っています。プロジェクトマネージャー(PM)に近い立場と考えると、イメージしやすいかもしれません。
都のDXには、GQ(行政力)とDQ(デジタル力)が欠かせない
GovTech東京など多くの方と関わる中で、ICT職にはどのような知識やスキルが求められると感じますか?
鳥井:「東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver1.0」では、DXを推進するデジタル人材に必要な4つのスキルが示されています。それが、IQ(ビジネス力)、EQ(チームプレイ力)、GQ(行政力)、DQ(デジタル力)です。

鳥井:IQやEQは、多くのビジネスパーソンに求められる基本的なスキルと言えると思います。一方で、GQは行政ならではのスキルであり、DQはデジタル分野で働くために不可欠なスキルです。ICT職としては、IQやEQだけではなく、GQとDQのどちらも必要だと感じています。
例えば、私が担当している庁内認証基盤に関する業務では、委託事業者との契約が伴います。技術的な内容を仕様書に落とし込むことはもちろんですが、庁内では契約手続のルールや予算要求のスケジュールが厳密に定められており、自由なタイミングで進めることはできません。また、様々な場面において事業に関する説明や関係者との調整が求められます。そのため、行政の仕組みを理解したうえで、先を見越した計画と業務を円滑に進めるための判断力や調整力、つまりGQが求められるんです。
一方で、GovTech東京や委託事業者と同じ目線で議論するには、専門的な内容を理解できるDQが不可欠。こうした状況を考えると、ICT職にはGQとDQの両方が欠かせないと感じます。

飯野:分かります、どちらのスキルも必要ですよね。ただ、DQは経験や努力である程度補填できても、GQを伸ばすのは簡単ではないと感じています。行政ルールは一律ではなく、部署ごとに異なりますし、担当者の異動もあります。私も入庁当初は、その壁に悩みました。
そこで私が行っているのが、できるだけ対面で話して顔を覚えてもらい、気軽に会話できる関係性を気づくこと。ICT職の先輩だけでなく、現場の専門家に相談することで、新たな視点や課題解決のヒントを得られる場面がたくさんあるんです。
事務職のご経験を踏まえて、GQやDQに対する考えを教えてください。
鳥井:事務職出身として思うのは「ICT職はDQ、事務職はGQに特化する」ことが求められているわけではない、ということです。DQはICT職だけでなく、事務職にも求められるスキルであり、リスキリングを通じてデジタル理解を深めることが大切だと思います。
飯野:確かに、その通りですね。
鳥井:AI使用や、ローコード/ノーコードツールも広がっている近年、GQやDQといったスキルの必要性に関しては、職種間の境界線が薄れてきているように思います。つまり、「この職種にはこのスキルだけが必要」というような明確な線引きはなく、スキルの濃淡が異なるだけだと思うんです。色の淡い部分、言い換えると、足りないスキルがあればチームで補い合いながら進めていく。それが、これからの働き方においてますます重要になるのではないでしょうか。
飯野:私たちはICT職として、事務職のリスキリングをサポートしながら、DXを推進する。お互いの連携によって、チームや組織全体の力が底上げされていくのかもしれませんね。
行政と専門家を「つなぐ」。ICT職が果たす使命

ICT職としての仕事で、やりがいを感じるのはどのような場面ですか?
飯野:少数派の声も大切にするところに、公共サービスの醍醐味を感じます。民間では特定のターゲット層に向けて商品やサービスを設計するのが一般的ですが、行政はより幅広い人々を対象とする点が特徴です。
もちろん、子育て世帯や高齢者向けといった施策ごとの特性はあれど、利益や負担の有無で対象者を絞らず、公平に手を差し伸べる仕組みを大切にしています。
鳥井:私がやりがいを感じるのは、これまで経験したことのない新しい仕事に挑戦できた時。例えば、一昨年手掛けたオープンローミングというWi-Fi事業は世界的に見ても先進的な取り組みでしたが、今では、例えば銀座のいたるところで自動的に公衆Wi-Fiに接続できるようになりました。こうして取り組んできたことが形になり、多くの人に届けられた時は格別の達成感があるんです。
また、異動により全く異なる業務に携わることになる機会が多々あり、「次はどんな仕事になるのだろう」と、期待と不安が入り混じる気持ちになることもあります。でも、担当することになったテーマの中でどんな価値を生み出せるかを考えるプロセスには面白さがあり、その先に広がる可能性の大きさを実感しています。
公共性や新しい挑戦が、やりがいに繋がっているんですね。ICT職の意義はどのような部分にあると思いますか?
鳥井:私たちは行政職員であり、プログラマーやSEといった純粋なITの専門家として業務に携わるわけではありません。ICT職には、専門家と行政の間をつなぐ「通訳」としての役割が求められるのだと思います。

鳥井:通訳が異なる言語を話す人同士のコミュニケーションを助けるように、ICT職は行政サービスのDXを進める中で、行政実務とデジタル技術の双方を理解して、両者をつなぎます。先ほどお話ししたGQとDQが活きるのは、まさにこの部分。行政の仕組みを知りながらデジタル知識を活用することで、DXの実現を後押しできるんです。
飯野:事務職からICT職へ職種変更するにあたって、周囲からは慎重な意見もありました。新設された職種であるがゆえに、職種の位置づけや期待される役割を模索する段階だったと感じます。
しかし、私は「ICT職だからこそ、東京都という舞台で果たせる重要な役割がある」と信じて、この道に飛び込みました。
都民の暮らしに根差したボトムアップ型DXで、未来の行政サービスを創る
お二人が、これから挑戦したいことを教えてください。

鳥井:これまで関わってきた事業との対比で、現場発信によるボトムアップ型のDXの実現にも寄与したいです。都のDXの先には、行政サービスを受ける都民や事業者といった利用者がいます。そして、その最前線で利用者と向き合い、日々やりとりを重ねている職員の方々がいます。
実際、都庁では事務職が大半を占め、行政業務の大部分を支えています。だからこそ、事務職や現場の職員の方々が「こうしたらもっと便利になる」「ここが困っている」といったアイデアや声を一緒に形にしていきたいと考えています。
言われてやるDXではなく、現場に根差したDX。それが実現出来たら嬉しいですね。
飯野:将来的には、都民一人ひとりの生活に密着した事業に携わりたいと思っています。今取り組んでいるシステムは、東京都と契約する全国の事業者を対象としたものですが、今後は、さらに生活の細部に寄り添い、日常に役立つサービスを作ってみたいです。
東京都というフィールドだからこそ、こうしたスケールの大きな挑戦が、現実となる可能性があると思っています。
DXが広がる未来が楽しみですね。最後に、入庁を目指す方々に向けて、一言お願いします。

鳥井:公務員として行政に携わる道を少しでも考えたのなら、ぜひ一歩踏み出してみてください。
もし民間企業から民間企業への転職を志した場合、仕事内容をある程度イメージできるケースが多いかもしれません。しかし、行政の仕事は、良い意味で予測不能なんじゃないかと思います。苦手だった分野が得意になることもあれば、新たな可能性を広げる機会になることもあると思うんです。東京都のスケール感を体感しながら、新しいことにチャレンジしてみたい方のご応募をお待ちしています。
飯野:行政には、新技術の実証フィールドとしての役割が求められていると思っています。
先駆者であるがゆえに想定外の状況や変化が伴うこともありますが、馬力のある東京都だからこそ、それらを克服し、可能性を切り開けるはず。デジタル社会への挑戦に魅力を感じたら、ぜひ一緒に働きましょう。