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GovTech東京への派遣で、専門性を磨く。ICT職が取り組む「生成AIプラットフォーム」の開発現場
東京都では、ICT職が行政分野とデジタル分野の双方の知識・スキルを兼ね備えた職員となることを目指し、ジョブローテーションを実施しています。その取組の一環として行われているのが、GovTech東京への派遣です。
GovTech東京には、デジタルに関する高い専門性を有するエキスパート人材を民間企業等から採用しており、ICT職がGovTech東京への派遣を通じてエキスパート人材と協働することで、行政職員とは違った視点を吸収するほか、デジタル分野の技術力を磨いています。
そして現在、東京都とGovTech東京が協働して取り組んでいるのは、都庁各局および区市町村の職員が安全にAIを活用するための共通基盤「生成AIプラットフォーム」の開発です。
都庁とは異なる文化を持つGovTech東京での業務を通じて、実際に職員がどのように成長できるのか。今回は、プロジェクトの最前線で活躍する都庁ICT職の嶋田さんと、GovTech東京の橋本さんにお話を伺いました。(記事中の組織名称、役職は取材当時のものです)
嶋田(東京都/ICT職)
デジタルサービス局総務部総務課付派遣 GovTech東京 AI・イノベーション室
大学でAIやプログラミングを学んだ後、2024年4月に入庁。GovTech東京へ派遣され、都政DXグループを経てAI・イノベーション室に配属。現在は、行政の業務効率化を目指す「生成AIプラットフォーム」の開発プロジェクトに従事し、エンジニアリングから普及活動まで幅広く担当している。ICT職4期生。
橋本(GovTech東京)
GovTech東京 AI・イノベーション室長
民間の開発・プロダクト経験を背景にGovTech東京へ。区市町村DXや都政DXの横断プロジェクトで生成AIプラットフォームを構想から実装までけん引。2025年10月より組織長として専門人材の育成とチーム成果の最大化に注力。
目次
「この人たちと働きたい」と思えた瞬間が、都庁を目指すきっかけに
はじめに、嶋田さんが東京都を志望されたきっかけを教えてください。

嶋田:大学でAIやプログラミングを学び、卒業後は知識をさらに深めるため、大学院への進学を考えていました。そんな時、家族から公務員という道を勧められたのがきっかけで、東京都のICT職を知りました。
「これまで培ったデジタル分野の知見を生かせる仕事なら面白そうだ」と思い、都庁で働く大学の先輩を通じて、ICT職の方々に話を聞く機会をいただきました。そこで印象的だったのは、公務員の堅いイメージとは違い、アロハシャツ姿のフランクな雰囲気だったこと。オープンに意見を交わす姿に惹かれ、「この人たちと働きたい」と直感したんです。自分の専門性を伸ばしながら挑戦できる環境は、東京都ならではかもしれないと感じ、入庁を決意しました。
入庁後のキャリアについて教えてください。
嶋田:2024年4月に入庁すると同時に、GovTech東京へ派遣されました。派遣当初はGovTech東京について詳しく知らず不安もありましたが、先進的なオフィスで最新のデジタル技術に触れられる環境に、ワクワクしました。最初に配属されたのは、都政DXグループで、都庁におけるAI活用のあり方を検討した後、翌年から現在のAI・イノベーション室で勤務しています。
私たちICT職は、行政とデジタルの両面に精通し、都全体のDXをけん引することを目指しています。そのため、デジタルサービス局を中心に、GovTech東京や各局での実務を経験しながら、多様な視点を養うジョブローテーション※を行っているんです。私自身、これまで一貫してAIに関わる業務に携わっており、学生時代からの関心を仕事として形にできていることに、大きなやりがいを感じています。
※ICT職の成長を支える仕組みとして、キャリアラダーを設けています。詳しくはこちら をご確認ください。
東京都の新たなAI基盤「生成AIプラットフォーム」とは
お二人が推進されている「生成AIプラットフォーム」とはどのようなものでしょうか?

橋本:生成AIプラットフォームは、東京都と区市町村の職員が、安全かつ効率的に生成AIを活用できるよう整備された共通基盤です。特徴は、オープンソースをベースとしたソフトウェアを活用しながら、東京都のデジタルサービス局とGovTech東京が協働して内製している点です。行政の現場に対する理解と、デジタルの専門性を掛け合わせながら開発を進め、より実務に即した形で整備を進めています。

嶋田:このプラットフォームが求められる背景には、労働人口の減少により、行政の業務効率化が急がれているという状況があります。従来であれば各自治体や各局がそれぞれ生成AIを導入していくのが一般的ですが、その場合、環境の構築や運用に時間とコストがかかり、知見も分散してしまいます。さらに、既存の生成AIツールは行政特有の細かな業務にそのまま適合しない場合がある他、情報管理の面でも慎重な対応が必要です。
こうした課題に対応するため、東京都では共通のプラットフォームを整備し、職員が自分の業務に合わせてアプリケーションをノーコードで構築できる環境を用意しました。これにより、システム全体の効率化と業務スピードの向上が期待されています。
具体的に、どのような業務での活用を想定されていますか?
嶋田:行政業務では文書を扱う場面が多いため、まずは文書作成やチェック業務での活用を想定しています。例えば、報告書や議事録を定型フォーマットに整える、文章を要約・翻訳するといった作業です。
また、庁内での問い合わせ対応にも活用できると考えています。文書規定や手続に関する質問に対して、AIがマニュアルをもとに自動で回答すれば、新しく配属された職員が必要な情報をすぐに確認できます。こうした仕組みを整えることで、人とAIの役割が明確になり、より都民の生活に直結する業務へ注力できるようになると感じています。

プロジェクトの立ち上げから現在までの流れを教えてください。
嶋田:現場の課題意識から生まれたボトムアップ型の取組として、2024年8月にGovTech東京内の部署横断チームが発足しました。その後、同年12月の「東京都AI戦略会議 」で示した全体方針を踏まえ、2025年4月に「AI・イノベーション室」が新設。現在に至ります。
実用化に向けた検証の中では、「ドッグフーディング」を重視しました。ドッグフーディングとは、サービスの提供者である私たちがリリース前にシステムを実際に使い、課題や改善点を検証していく手法です。
一人のユーザーとしてシステムを使ってみることで、その利便性と課題の両方を肌で感じることができました。たとえば、現在の都庁で使える生成AIは限られていますが、プラットフォームでは複数の生成AIを比較でき、業務内容に応じて活用方法を検討できます。また、ノーコードでアプリを構築できるため、専門的な知識がなくても開発できる魅力を再認識しました。
一方で、課題も見えてきています。「ノーコードでアプリを作れる」という強みがあるものの、より高度な構築を求められる場面ではコードによる調整が必要になるなど、運用面での改善ポイントも明確になりました。
橋本:現在は、2026年度の本格稼働に向けた試行段階です。ドッグフーディングで得た知見をもとに、一部の都庁職員の方に利用していただき、フィードバックを収集しています。多くのアクセスに対応できるインフラの検証や、安全に運用するためのガバナンス体制の整備も同時に進めているところです。
ICT職とGovTech東京の協働により生まれる新しい価値
お二人は、このプロジェクトでどのような役割を担っているのでしょうか?

嶋田:私は、GovTech東京の開発当事者であり、同時に都庁のICT職でもあるという、二つの役割があります。前者としては、GovTech東京の経験豊富な先輩方から、実践的な技術やプロジェクトマネジメントについて幅広く勉強しているところです。AIを活用する際、「AIを使うこと」自体を目的にしがちですが、導入ありきにならず、本当に業務に役立つアプリの形を模索しています。
ICT職としては、将来的にGovTech東京で得た知見や文化を都庁へ持ち帰ることも重要な役割です。単なる“橋渡し”に留まらず、双方の文化を深く理解する“翻訳者”として、東京都全体のデジタル施策をリードしていけるよう意識しています。
橋本:私は民間で培った開発経験を活かし、技術面からプロジェクトを支えることが主な役割です。これまで東京都でシステムを構築する際は、外部委託先への依頼や調整が必要な場面も多かったのですが、今はGovTech東京のような専門家が同じ組織内にいるため、課題の共有や技術的な議論がスムーズになりました。結果として、意思決定のスピードが上がり、より現場に即した開発が進められていると感じています。
また、嶋田さんのような若手のICT職が、将来都庁に戻った時に第一人者として活躍できるよう、成長をサポートし人材を育成することも、重要な役割だと捉えています。
ICT職とGovTech東京が協働することで、どのような価値が生まれていますか?
嶋田:行政の現場には特有の制約やルールがありますが、GovTech東京のエキスパートと議論を重ねることで、「どうすれば実現できるか」を前提にした建設的な発想が生まれています。また、内製化を進めるためのステップや、アップデート時に起こりうるトラブルへの対応、実践的な技術の習得など、現場でしか得られないノウハウを直接学べるのも貴重な経験です。
橋本:嶋田さんは開発だけでなく、プラットフォームを広めるための普及活動や広報の面でも活躍されているので、なおさら双方の視点が活きてきますよね。
嶋田:そうですね。インターンや中高生向けの説明会の他、GovTech東京内で利用者コミュニティを立ち上げ、実際にアプリを作っている職員と意見交換をしています。アプリ開発は一人で黙々と進めがちですが、集まって共有することでモチベーションが上がり、「もっと良いものを作りたい」という意欲にもつながります。
こうした交流を通じて気づいたのは、「現場を深く理解している人ほど、本当に役立つものを作れる」ということです。コミュニティの中には、前職の経験を活かし、目の前の業務だけでなく幅広く使える仕組みを自ら工夫して開発する方もいます。課題を肌で感じたことのある人の発想こそが、現場に根ざしたものづくりにつながるのだと実感しました。
異なる文化を持つ方々が協働する上で、意識していることを教えてください。

橋本:ICT職もGovTech東京のメンバーも、「都民により良いサービスを届けたい」という目標は同じです。ただ、転職を経験した私の感覚からすると、組織や文化が違えば、物事の進め方や優先順位が異なることもあります。言うなれば、「同じ日本語を話していても、別の国で働いているような感覚」です。GovTech東京は、どちらかといえばスタートアップ企業に近いような風土がありますよね。
嶋田:確かに、少人数でスピード感を持って課題解決にあたるという点で、スタートアップという表現はしっくりくるかもしれません。
私は、立場や文化が異なるからこそ、日々のコミュニケーションが大切だと感じています。例えば、私のチームでは1on1を大切にしており、新しいメンバーが加わった時は、それぞれと時間を取って話すようにしています。7人ほどの小さなチームなので、こうした対話の機会をつくりやすいのも強みなんです。
また、以前は同じプロジェクトを担当する他部署の方と席が離れていて、ちょっとした相談がしづらい状況がありました。そこで、メンバー同士が近くに座るよう配置を変えたところ、お互いに質問が生まれやすくなり、格段に連携しやすくなったと感じています。
立場を越えて、同じ未来へ。東京都発の「デジタル公共財」を目指して
この「生成AIプラットフォーム」が本格稼働した先に、どのような未来を描いていますか?

嶋田:私たちが目指しているのは、職員の事務作業を効率化し、“手取り時間 ”を増やすことです。手取り時間とは、小池百合子知事が提唱した言葉で、育児や介護、趣味など、自分のために使えるゆとりの時間を生み出そうという考え方で、東京都の長期計画である「2050東京戦略」のキーワードにもなっています。生成AIを活用して生まれた時間によって私生活が豊かになり、蓄えた力を都民のための業務へと還元していく。この循環が、より良い東京をつくる原動力になると考えています。
個人としては、GovTech東京で得た経験を都庁に持ち帰り、行政実務の中でさらに成長したいと考えています。デジタル施策をリードし、「東京都のAIと言えばこの人」と言われるような存在になるのが目標です。
最後に、東京都で働くことに関心を持つ方へ、メッセージをお願いします。

嶋田:「東京都のデジタルサービスをもっと良くしたい」という熱い思いを持った方と、ぜひ一緒に働きたいです。生成AIプラットフォームは、東京都での取組をモデルケースとして、将来的には全国の自治体にも広がる“デジタル公共財”を目指しています。そのスケールの大きさをプレッシャーに感じすぎず、むしろ一緒に楽しんでほしいと思っています。
チームのコミュニケーションは活発で、テンポよく意見を交わすことが多いので、人と関わりながら動くのが好きな方にはぴったりです。私も、入庁当初は専門用語に戸惑う場面もありましたが、周囲のサポートに助けられながら少しずつ理解を深めてきました。分からないことがあっても、学びながら成長できる環境なので、安心して飛び込んできてほしいです。
橋本:東京都を志す以上、公共への貢献意欲を持っている方は多いと思います。それに加えて、AI・イノベーション室としてはAIをはじめとする技術に対する好奇心を持っている方と働きたいですね。公共へのマインドと技術への興味、その両輪を併せ持つ方は、間違いなく「最強の人材」になれると確信しています。
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